この作品は作者はやまおう。の著作物です。 利用の際、製作者を偽る事は禁じます。 イプ劇、こえ部Liveでの上演以外の利用の場合は、 BBSにご一報ください。 |
登場人物紹介
タクミ(♂) |
40間近のホスト。 限界を感じるものの、 今の仕事から抜け出せない。 妹に病気の母を任せっきりにしている。 |
アイジ(♂) |
タクミと同期のホスト。 父親を亡くしたことを機に、 転職を考え、ホストをやめる。 |
マユコ(♀) |
タクミの妹。 バツイチでで戻ったあとは、 病気の母の世話をしている。。 |
役表
シュウカツ タクミ♂: アイジ♂: マユコ♀: http://j.mp/1nxMZvS |
本編
マユコ:「もしもし、お兄ちゃん?
・・・なんだ、留守電かぁ。
お母さんの体調、最近良くないの。
今度、一回病院に連れて行こうと思うんだけど・・・。
たまには帰っておいでよ。
お母さん、きっと喜ぶから。」
【留守電が切れる】
【場面変更、ホストクラブ】
【仕事終わりに談話するタクミとアイジ】
タクミ:「え?・・・辞める?」
アイジ:「うん」
タクミ:「今更かよ・・・。」
【参ったなぁという様子で頭を掻くタクミ】
タクミ:「俺たち・・・もう40だぞ?
22年前、この店がオープンしてから
ずっと前線で頑張ってきたじゃないか。
それこそ、結婚もしないで働き続けてきた。
今更辞めたところで働き口を探すのは難しいし、
舞い戻るのがオチだぞ?」
アイジ:「お前が言ってることはわかる。・・・でもさ」
タクミ:「でも?」
【バツが悪そうに目を逸らすアイジ】
アイジ:「このままじゃ・・・ダメなんだよ。
確かに、働き慣れてきた仕事を辞めるのは、
馬鹿げてるかもしれない。
でもさ、この仕事だって・・・
いつまでも出来るわけじゃないだろ?」
タクミ:「それは・・・」
アイジ:「40過ぎて、50過ぎて、定年になっても出来る仕事ならいいさ。
無理だろ?気持ちの上で出来る仕事じゃないんだよ。ホストは。」
タクミ:「でも、俺たちにはそれしかなかったんだ。
気づくならとっくに辞めてたはずだろ。遅すぎなんだよ。」
アイジ:「今からでも遅いってことはないだろ・・・。
俺は、今月で辞める。」
タクミ:「・・・急にどうしたんだよ。何かあったのか?」
【少し躊躇うが、アイジは答えた】
アイジ:「去年さ。
親父が死んだんだ・・・。くも膜下出血。」
タクミ:「・・・突然?」
アイジ:「あぁ。」
タクミ:「そうか・・・。」
【少しの間、静寂が辺りを包み込む】
アイジ:「でさ。」
タクミ:「・・・あぁ、うん。」
アイジ:「くも膜下出血ってさ。」
タクミ:「うん」
アイジ:「調べたら30代、40代でもなるらしいな。
下手したら20代でも。」
タクミ:「らしいな。」
アイジ:「つまりはさ。俺たちもいつなるかわからないんだよな。」
タクミ:「だな。
けどさ、それって極論だろ?
くも膜下出血に限らず、人はいつ死ぬかわからない。」
アイジ:「うん。そうなんだよ。
明日にでも事故や事件に巻き込まれて死ぬかもしれない。」
タクミ:「いつ死ぬかわかる人生なんて嫌だね。」
アイジ:「でも、いつ死ぬかわからないこそ・・・出来る事もあるだろ?
いや、違うな・・・。
いつ死んでもいいようにって言ったほうがいいかも。」
タクミ:「死ぬことを考えて生きるのも、俺は嫌だな。」
アイジ:「けど・・・人は必ず死ぬ。誰も、その運命には逆らえない。」
タクミ:「そうだけどさ・・・。」
【また、しばらくの沈黙】
タクミ:「・・・今まで夜しかやったことのないお前が抜けれんのか?」
アイジ:「抜けなきゃダメだ・・・。
このままホストを続けて、将来何が残るのかなって考えたんだ。
金は残るだろうさ。
でも、俺達ホストは社会保険なんて入れないし。
銀行で金を借りることも出来ない。
万が一のことを考えたら不安になる。」
タクミ:「国保があるだろ?それに、銀行で借りるほど苦労してないだろ?」
アイジ:「万が一だから想定の話だよ。
・・・一番不安なのはさ。
このまま結婚しないで、爺さんになって・・・。
人知れず死んで・・・。
いや、それは誰かが見つけてくれたとしても・・・
誰が葬式上げてくれるんだろうって思ってさ。」
タクミ:「老人ホームで挙げてくれたりするんだろ?」
アイジ:「式は挙げない。
行政的な手続きしかやらないらしいぞ。」
タクミ:「そうなのか・・・。なんかそれはそれで・・・
寂しいけど仕方ないんじゃないか?」
アイジ:「かもしれないけどさ・・・俺は嫌だよ。」
タクミ:「俺だってやだよ・・・。」
【また、しばしの沈黙】
タクミ:「で、ホスト辞めて何する気?」
アイジ:「俺さ・・・事業起こそうと思ってるんだよね。」
タクミ:「事業?
確かに、ホストやめて会社起こす奴は多いよ?
でも、成功してる奴なんてひと握りだし。
夢見すぎじゃないの?」
アイジ:「そりゃアパレルだのITだの。
流行に囚われた商売は保証はできないよ。
必要としない人だっているもの。」
タクミ:「まぁ・・・こだわらなければな。」
アイジ:「本当に必要な物を仕事にしたいと思ってるんだ。
俺が感じた・・・大切なもの。
幸い、開業に必要な資金は、貯金で十分だし。」
タクミ:「いくらくらいかかるんだ?」
アイジ:「開業費用自体は3000万。
最初の2、3年はキツいだろうから、
そのやりくりに必要なお金も含めて
6000万くらいかな。」
タクミ:「そんなに貯めてたのか?!」
アイジ:「この仕事始めた時から、万が一に備えて貯めてたからね。」
タクミ:「確かに・・・お前、稼ぎの割に金遣いとか地味だったもんな。
でも、凄いな。
そこまで出来るなら頑張ってみろよ。」
アイジ:「あぁ、ありがとう。
・・・タクミもさ、
将来のこと考えて、早めに行動したほうがいいよ。」
タクミ:「俺には今更、就活する勇気はないなぁ・・・。
お前みたいに起業するような貯金も貯めてこなかったし・・・。」
アイジ:「それならさ・・・。
俺と一緒にやらないか?」
タクミ:「いや・・・今はまだこの仕事でやっていきたい。
この歳だからこそ出来る接客のやり方があるからな。」
アイジ:「そっか・・・わかった。
まぁ、でも・・・気が向いたらいつでも連絡くれよ?
お前ならいつでも歓迎するからさ。」
タクミ:「あぁ、そうするよ。」
アイジ:「それじゃ、先に上がるわ。」
タクミ:「あぁ、また明日な。」
【店を出ていくアイジ】
【一息ついて携帯を取り出すタクミ】
タクミ:「留守電・・・?マユコからか。」
【マユコの伝言が再生される】
マユコ:『お母さんの事、見てもらったんだけどね。
あまり良くないみたいなの。
胃にね、腫瘍があるんだってさ。
今度、それを取る手術をするんだけどね・・・。』
タクミM:奴が店を辞めたのは一ヶ月後だった。
初めのうちは、長年一緒に働いてきた仲間がいない事に
違和感を覚えて、変な感じがしたが。
1年、2年・・・3年経つ頃には、
その違和感もすっかりとなくなっていた。
その違和感を感じない理由は、
時間の流れだけが原因ではなかった・・・。
俺自身、歳の事もあってか指名が取れなくなり・・・
どんどん出勤日数が減らされてきた。
正直、アイジを思い出してる余裕なんて・・・なかった。
【携帯の着信が鳴る】
タクミ:「おう、マユコ。」
マユコ:「あ、お兄ちゃん。
珍しい、電話に出るなんて・・・。」
タクミ:「そりゃ、たまには出るよ。」
マユコ:「大丈夫?仕事中に邪魔しちゃったかな?」
タクミ:「・・・いや。今日は休みなんだ。」
マユコ:「そうなの?週末は忙しそうなイメージだったんだけど・・・。」
タクミ:「はは・・・っ。歳には勝てないな。
気持ちだけは若いつもりなんだけどさ・・・。」
マユコ:「そっかぁ・・・。
ねぇ、もうホストなんてやめたら?
体にだって良くないでしょ?お母さんだって心配してるよ?」
タクミ:「わかってるけどさ・・・。」
マユコ:「病人に心配かけさせちゃダメだよ。
再発して半年・・・日増しに悪くなってるみたいなの。
たまにはお見舞いに来たらどう?」
タクミ:「・・・そんなに・・・悪いのか?」
マユコ:「悪いよ。」
タクミ:「そうか・・・そう・・・だな。時間が取れたら、行くよ。」
タクミM:生半可に返事をした。
その後、どうしてもお袋に顔を合わせる気持ちに
なれなくて・・・。
あれから何度もマユコから電話が来ていたが、
俺は居留守を使った。
そして・・・
マユコ:「また留守電・・・?いいかげんにして!!出てよお兄ちゃん!!
お母さんが・・・お母さんが・・・!!」
タクミM:尋常じゃないマユコの様子に俺は久々に電話に出た。
なるほど、取り乱すはずだ・・・。
闘病中のお袋の容態が急変し、意識がないらしい。
所謂、危篤状態というやつだ。
タクミ:「わかった・・・今すぐいくよ。」
タクミM:その後、どうやって病院に向かったかは覚えてはいない。
病院にたどり着くとロビーでは、
泣きはらした顔のマユコが途方に暮れていた。
さすがの俺でも、何を意味するかわかった。
【声を震わせ、涙ぐむマユコ】
マユコ:「お兄ちゃん・・・。遅いよ・・・。」
タクミ:「マユコ・・・。」
マユコ:「さっき・・・お母さん・・・。」
タクミ:「・・・ごめん。
あまりにも・・・急でさ・・・。」
マユコ:「急って・・・。
お母さんが闘病中だったのは知ってたじゃない・・・。
お見舞いにもロクに来ないで、急にだなんて・・・。」
タクミ:「・・・ごめん。」
マユコ:「・・・」
タクミ:「これから死亡届とか・・・葬儀とかの手続きとかしないとな。
保険とかいろいろ・・・」
マユコ:「そのことなら大丈夫・・・。
お母さん、シュウカツしてたから。」
タクミ:「・・・え?
闘病中に仕事探してたのか・・・?」
マユコ:「そうじゃなくて、終わるっていう字の方の終活。」
タクミ:「あぁ・・・流行語大賞にもあったっけ・・・。
お袋、そんなことしてたのか・・・。」
マユコ:「それで、粗方の事は教えてもらって・・・。」
タクミ:「誰に?」
マユコ:「葬儀屋さん。
終活アドバイザーって言うのもやってるところで。
お母さんが生前から相談してたの。」
タクミ:「死ぬ前から?そんな・・・縁起でもない。」
マユコ:「私もそう思ってたんだけど・・・。
『死ぬ為に生きる人間はいません。
でも、死は誰にでも平等に訪れます。
精一杯生きてきた証が葬儀なんです。
故人と遺族の別れの場でもあり、
故人が残してくれた物、思いに感謝をする場所なんです。』
だから、決して縁起の悪い話ではありません。って。
それ言われちゃったら・・・反対なんて出来ないわよね。
それに・・・。」
タクミ:「それに・・・?」
マユコ:「あんなに穏やかなお母さん、久しぶりに見たんだもの。
『タクミに心配かけさせないで済むわ』って・・・。」
タクミ:「・・・」
【自分の愚かさに気づいて声を殺して泣くタクミ】
マユコ:「お兄ちゃん・・・。
・・・・あ。」
【病院の玄関から入ってきたアイジに気づいて】
マユコ:「噂をすれば・・・葬儀屋さんよ。」
タクミ:「え・・・?」
【葬儀屋の顔を見て驚くタクミ】
タクミM:俺はあの時のあいつの言葉をようやく理解出来た。
【二人に気づいて挨拶をする葬儀屋】
アイジ:「この度はご愁傷さまで・・・ご遺族の心中、お察しいたします。
倖田葬儀店代表の倖田です。」
【シニカルに笑むタクミ】
タクミ:「・・・なるほど・・・確かに必要だな。」
【おしまい】