ヒゲのメイドさん

この作品は作者はやまおう。の著作物です。
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※この台本はノリだけで書いてます。

                登場人物紹介

エドガー・ハリー(♂) 通称:エド。
元傭兵のヒゲのオッサン。
何故かわからないが、メイドになった。
アナスタシア(♀) 通称:アナ。
男装した女執事でクール。
エドの存在に、興味がある。
ご主人様(♂) 存在感の薄い主。
名前すら忘れられている。
とりあえず、上品な初老である。
ヒルダ(♀) メイド長の中年女。
悪い人ではないが、物凄い厳しい。
エドの存在に頭を痛めている。
ナレーター(不問) 通称:ナレ。
馴れ馴れしいナレ。
エドを小馬鹿にしており、何故か会話出来る。

                   役表

ヒゲのメイドさん

エド♂:     
アナ♀:    
ご主人様♂:   
ヒルダ♀: 
ナレ♂♀:

http://j.mp/1nxH5uC

               本編

 

ナレ:とある国のとある町。
   ここに何をして財を成したかわからない男の豪邸がありました。
   何をしてるかわからない影の薄い主人と、数人の使役人が住んでおり、
   そこに、新たに配属されたメイドが彼、エドガー・ハリーである。
   ・・・って彼?

エド:「あんー?なんだ?男がメイドになっちゃいけないのか?
    このご時勢、男とか女とかどーだっていいだろ?
    ほら、よくいるじゃねぇか!男の娘と書いて『おとこのこ』!
    それと一緒だろうよ。」

ナレ:全くの別物です。
   そう、この男エドガー・ハリーは世にも珍しい

   「ヒゲのメイド」なのである。

   あー…気持ち悪い。

 

エド:「なにぃ?!」


ナレ:お?

   そうこうしてる間に、お屋敷から誰か出てきましたね。

アナ:「・・・どちら様でしょうか?」

エド:「家政婦協会からこの屋敷に配属されたエドガー・ハリーだ!
   親しみを込めてエドって呼んでくれぃ!」

アナ:「家政婦・・・?
   あぁ、新しいメイドさんですか。

   …メイドさん?

   まぁ、とりあえずお入りください。」

ナレ:出てきたのはこの屋敷の執事・アナスタシア。
   名前でお気づきのとおり、男装の麗人。
   奇しくもエドガーとは真逆の設定のようです。

エド:「設定とか言っちゃっていいのか?」

アナ:「どなたと話されてるんです?」

エド:「あん?聞こえねぇのか?

    このふてぶてしい、ムカつく声が…。」


ナレ:あぁ、私の声は

   あなたにしか聞こえない仕様になってますので。

   …残念でしたね(笑)。
   私に話しかけていると、頭のおかしな人だと思われますよ?
   それでなくても「ヒゲのメイド」って時点でおかしいんですから。

エド:「るっせーな!仕方ねぇだろ!!」

アナ:「・・・大丈夫ですか?」

エド:「あ、あぁ…だ、大丈夫。

    大丈夫、問題ナッシングだ。」

 

ナレ:…さぶっ。

   アナの案内で、部屋に通されるエド。


アナ:「ここが我々使役人の控え室。
   まずは、こちらで仕事着を着用してください。
   私は、メイド長のヒルダさんをお呼びしてきます。」

エド:「お、おう!」

ナレ:そう言い残し、部屋を後にするアナ。
   残されたエドガーは用意されたメイド服を手に取る。

エド:「う~ん…

    流石に、スカートを履くわけにもいかないよな。」

ナレ:履いたら軽蔑します。

エド:「ッチ、うるせぇナレーションだな。」

ナレ:着慣れた戦闘服の上からフリルのエプロンを着用し、
   ヘッドドレスを身につけるエドガー。
   これだけでも十分変態です。

エド:「変態変態うるせーよ!!!」

ヒルダ:「何を一人で叫んでいるのですか?騒々しい。」

ナレ:部屋へ入ってきたのはメイド長・ヒルダ。
   彼女の厳しさに耐え切れず、辞めていくメイドは多数。
   今回、そんな彼女の厳しさに耐えられる強靭なメイドを
   との依頼で、配属されたのがこの変態なのである。

エド:「こいつまた…!」

 

ヒルダ:「はい?」

 

エド:「い、いや…なんでもないぜぇ?」

ヒルダ:「精神的に強いメイドを・・・と頼んだら・・・。
    まさか、男性のメイドとは・・・(ため息)世も末です。」

アナ:「私のような女執事もいるのです。
   これが時代の流れ、ですよ。」

ヒルダ:「そういうものなのかしら。
    …まぁ、よろしいでしょう。

    大事なのは仕事ができるかできないかですものね。
    私の指導は厳しいですよ?」

エド:「こちとら長年傭兵をしてたんだ!
    しごかれるのは慣れてるぜ?」

ヒルダ:「傭兵上がりですか。それでは遠慮なく・・・。
    まずは、ご主人様に挨拶へ参りましょう。
    ついていらっしゃい。」

ナレ:エドガーはヒルダの後について、屋敷の廊下を歩く。
   主人の部屋はこの廊下の奥にある書斎。

ヒルダ:「つきました。ここがご主人様の書斎。
    大体は、ここでお仕事をなさっておいでです。
    用のないときは立ち入らないように。」

エド:「おう!任せとけ!」

ヒルダ:「なんですか?その口の利き方は。

     ここは軍隊ではないのですよ? 
    『かしこまりました』『承知いたしました』

    と言うのが常識でしょう?」

エド:「かしこまりしました。」

ヒルダ:「…(ため息)

     (ノック)失礼しますご主人様。
    本日付で配属された、メイドを紹介に参りました。」

ご主人様:「入りなさい。」

ヒルダ:「失礼します。・・・さ、お入りなさい。」

エド:「おっじゃっましまー・・・」

ヒルダ:「(かぶせるように強く)失礼します。」

エド:「・・・失礼します。」

ご主人様:「えーっと・・・(困惑した様子で)メイド?」

ヒルダ:「はい。メイドにございます。」

ナレ:エドガーを見た主人はあんぐりと口を開けていた。
   無理もない。
   そこにいるのは、メイドのエプロンをまとった
   ヒゲの大男なのだから。

エド:「本日から、この屋敷に配属になりました

    エドガー・ハリーであります!」

ご主人様:「そ、そうか…男のメイドか。

      いやはや、これは驚いた。

      ・・・あはっ・・・あはははは」

ナレ:引きつった笑いしか出ない。
 
エド:「これからバリバリ働かせてもらうんで、

    よろしくお願いしまっす!」

ナレ:傭兵の名残の敬礼。軍人口調。
   よく見ればエプロンの下は戦闘服。
   これをメイドと認めるのは、主人にはとても難しい事だった。
   それでも、必死に現実を受け止めようとにこやかな表情を作る。
   健気である。

ご主人様:「あ…あぁ、期待しているよ。

      彼の指導はヒルダ、よろしく頼む。」

ヒルダ:「かしこまりました。

     では、私たちは昼食の準備へ参ります。
     何かありましたら、お申し付けください。」

ご主人様:「うむ。」

ナレ:主人に会釈をすると、

   ヒルダはエドガーを引き連れ部屋を後にした。

ヒルダ:「もう少し柔らかく対応してくれないと、

     ご主人様が驚かれてしまいます。
     その点をお気をつけなさい。
    …それから、「バリバリ」というのはなんですか?
    あのような砕けた言い方は望ましくありませんね。」

エド:「うっ・・・き、気をつける。」

ヒルダ:「気をつけます、でしょう。」

 

エド:「気をつけます!」

ヒルダ:「よろしい。
     では、昼食の準備です。
     お料理はお出来になるのかしら?」

エド:「任しとけぃ!傭兵時代から料理は得意でな。
    野営中なんて、仲間のために腕をふるったもんだぜ?」

ヒルダ:「…意外ですね。 
     口の利き方は相変わらずですが…。

    では、お料理の方はお任せしましょうか。
    私は食卓の準備をしてまいります。」
    
エド:「了解!」

ヒルダ:「む?」

エド:「・・・(咳払い)かしこまりました。」

ヒルダ:「では、失礼します。」

ナレ:そう言って厨房にエドガーを一人残すと、

   ヒルダはその場を後にした。

エド:「さて・・・と、冷蔵庫の中身を確認するかぁ。
    ・・・卵にトマト、レタス・・・おっ旨そうなベーコンだ!
    バターはあるな。よしよし、いっちょやるか。」

ナレ:意外にも、手馴れた包丁さばきを見せるエドガー。
   私はてっきり、肉をまるごと焼いたりするのかと思いました。

エド:「バッキャロー。

    こんなところで丸焼きなんてしてみろ?
    火事になっちまうぜ?」

ナレ:一体、どんな焼き方をしようと考えてるんでしょうか。
   さて、ところ変わって再び書斎。
   今度はアナが、主人の元へ訪れたようです。

アナ:「お仕事お疲れさまです。
    ロドニー様から頂いた、紅茶を淹れてまいりました。」

ご主人様:「おぉ、ありがとう。
     ・・・いい香りだ。

      衝撃的なものを見たあとだから、心が休まるよ。」

アナ:「衝撃…。

    あぁ、あれは確かに、衝撃的ですね。」

ご主人様:「まぁ、悪い人には見えないし…。

      しばらく様子を見届けるとしよう。」



アナ:「私もサポートいたします。」

ご主人様:「そうだな、君やヒルダがいれば安心だ。
      …あ、そうだ、来週末なのだが。

      娘のマーガレットが孫娘を連れて
      遊びに来るそうだ。」
     
アナ:「ミア様ですか。
    こちらにいらっしゃるのは・・・1年ぶり、でしょうか。

ご主人様:「あぁ。
      ミアの為に美味しいケーキを準備しておいてくれ。
      あの子の好みは、わかっているだろう?」

アナ:「勿論です。お任せ下さい。」

ご主人様:「あぁ、頼んだよ。」

ナレ:一方、昼食を作っているエドガーはというと。

エドガー:「よし、我ながらいい出来だぜ!」

ナレ:スクランブルエッグに焼いたベーコンと、

   レタスとトマトのサラダですか。
   まぁ、無難っちゃ無難ですね。

エド:「へっ。昼食っていうのはこれくらいがいいんだよ!」

ナレ:どちらかというと、朝食向きだと思いますけどねぇ。

エド:「あぁ言えばこう言うだなぁ・・・。

    これに焼きたてのガーリックトースト。
    勿論、オリーブオイルとバジルも忘れずに…と!」

ナレ:まぁ、良しとしましょう。
   エドガーは出来上がった昼食を、食卓へと運んでいく。

ヒルダ:「ふぅん…。

     言うだけあってなかなかお上手のようですね。
     人は見かけによらないって事でしょうか。」

エド:「へへっ!夕食は期待しててくれよ?
    もっとスッゲーもん、作ってやるからな。」

ヒルダ:「口の利き方がまた雑になってますよ?
     ひとつ褒めると、ひとつ疎かになる事は悪い癖です。」

エド:「…以後、気をつけます。」

ヒルダ:「では、ご主人様をお呼びしてまいります。
     貴方は『綺麗に』食事を並べておいてください。」

エド:「かしこまりました!」

ナレ:習った言い回しをそのまま使用するエドガー。
   食卓に主人が現れ、全員がその場に集った。
   食事が終わると今度は屋敷の清掃。
   体力に自信のあるエドガーには、楽な仕事であったが
   やれ雑だ何だと、ヒルダの小言が突き刺さる。

アナ:「お疲れさまです。少し休憩にしましょう。」

ナレ:使役人室でへばっているエドガーの元に、

   紅茶を持ったアナがあらわれた。

エド:「おー!サンキュー!気が利くじゃねぇか。」

アナ:「まぁ、それが仕事ですから。
    …その分ですと、ヒルダさんに相当絞られてるようですね。」

エド:「へっ、まぁな。
    でも、どこの世界にもああいう小言の多い

    お局様ってのはいるもんだ。これくらいどうってこと・・・」

ヒルダ:「お局で悪ぅございましたね。」

エド:「うわぁ!!」


ヒルダ:「アナさん。私にもいただけますか?」

アナ:「勿論。」

ナレ:注がれた紅茶を一口飲むと、ヒルダはホッと息を吐いた。

ヒルダ:「…やはり繊細な仕事は、あなたにはまだ早いようですね。
     力仕事では頼もしいのですが・・・。」

エド:「まぁな。男だし、元傭兵だし。」

ヒルダ:「…どうしてメイドなのです?
     あなたのように体力のある男性ならば、

     いくらでも働き口はあるでしょうに。」

エド:「そんなこと言ったらこの執事のアナだって、

    よく見りゃ結構なべっぴんさんだ。
    男の格好で執事をやるより、もっといい仕事があるだろ?」

アナ:「私は、『好き』ですから。」

エド:「だろ?好きだからやるんだ。

    俺だってこの仕事が楽しくてたまらねぇ。

    怒られてばっかりだけどよ!」

ヒルダ:「その性格でメイドというのが、

     なんとも理解しがたいですね。」

エド:「俺は今まで傭兵として、たくさんの命を奪ってきた。
    一緒にいる仲間も、いつも苦しい顔をしていた。
    もちろん俺もな。
    それで、傭兵をやめたら誰かの為に、

    その人を笑顔にできる仕事をしたいと思ってな。
    誰かに使われることくらいしか俺にはできねぇ。
    んなもんで、メイドを選んだわけだ。

ヒルダ:「しかし、男性をメイドとして迎えるとは・・・
    最近の傾向は不思議なものです。」

エド:「執務をするのが執事。

    その他の仕事はメイドの仕事。
    女の細腕じゃかなわねぇ事も、男の俺にはできるだろ?」

ヒルダ:「確かに。」
    
エド:「まぁ、硬い考えは捨てて柔軟にいこうぜ、ヒルダさんよ。」

ヒルダ:「私は柔軟ですよ?

     ただ、あなたの口の利き方はいただけませんが。

     …さて、そろそろ仕事に戻りましょうか。
     今度はお庭の手入れです。
     体力自慢のあなたには、ピッタリの仕事じゃないかしら?」

エド:「へへっ、それじゃいっちょやってくるか!
    アナ、紅茶うまかったぜ!」

アナ:「喜んでいただけて、何より。」

ナレ:一足先に部屋を後にするエドガー。
   残されたヒルダはため息をついて、

   アナにこぼす。


ヒルダ:「それでも、やはり心配ですよ私は。」

アナ:「心配・・・ですか?」

ヒルダ:「えぇ、元傭兵ですよ?
     何かしら、大きなトラブルを招いてしまうのではないかと。」

アナ:「・・・悪い人には見えませんが。」

ヒルダ:「それは私にもわかりますよ。
     ですが、本人が意図せずとも…

     そういう人には、そういった物が呼び寄せられるんです。」

ナレ:ヒルダの心配をよそに、鼻歌交じりに庭の手入れをするエドガー

エド:「さーて、噴水はこんなもんかな。次はー・・・ん?」

ナレ:何者かの気配に気づくエドガー。
   慎重に辺りを見渡し、気配の主を探す。

エド:「・・・そこか!」

ナレ:エドガーは気配のする方向へ、隠し持っていたナイフを投げつける。
   その瞬間、茂みから飛び出してきたのは、一匹の野犬だった。

エド:「なんだってこんな所に彷徨いこんだんだ?
   おい、ワン公。
   痛い目見ないうちに、とっとと此処から出て行きやがれ!」

ナレ:人間の言葉等、犬には通用しません。
   野犬はヨダレを垂らしながら、鋭い犬歯の伸びた口を開く。

エド:「人間様を舐めてやがるな…。
    仕方ねぇ、忠告はしたんだからな?
    どうなっても知らねぇぜ?」

ナレ:その瞬間、野犬がエドガーに向かい飛びかかってくる。
   エドガーはそれを手刀で叩き落とす。

エド:「甘い甘い!野営中、何度も狼と戦ってんだ。
    お前みたいな都会のワン公、赤子も同然だ!」

ナレ:犬はフラフラと立ち上がると、再びエドガーへ牙を向ける。
   その騒がしさに気づいたヒルダが駆けつけた。
   そして、青ざめた表情で大声を張り上げた。

ヒルダ:「な、何をなさってるんです貴方は!!!」

エド:「お?ヒルダさんよ。下がっててくれ。
    薄汚ねぇ野良犬が一匹、紛れ込んでてよぉ。

    危ないから・・・」

ヒルダ:「薄汚い野良犬とはなんですか!!!
     それは、ご主人様の愛犬、アルフですよ!!!」

エド:「へ?…愛…犬?」

ナレ:鳩が豆鉄砲を食らったような顔で、犬の顔を見るエドガー。
   よく見れば、首には立派な首輪がある。

エド:「なっ・・・で、でもコイツの方から

    俺に襲い掛かって・・・」

ヒルダ:「見たことのない大男が、

     自分の家にいたら犬だって驚きます!
     おぉ、アルフ、怖かったですねぇ。」

ナレ:ヒルダが名前を呼ぶと、アルフは尻尾を振りながら
   きゅーん、きゅーんと甘えた声を出した。

エド:「…なんだよ。

    これじゃ俺が完璧、悪者じゃねぇか…。」

ヒルダ:「出勤一日目にして、

     よくまぁトラブルを起こしてくれたものです。
     この事はご主人様に報告します。
     明日にでも、あなたの処分を決めます。
     今日はとりあえず、お部屋にお戻りなさい。」

エド:「・・・かしこまりました。」

ナレ:『身から出た錆』というのはまさにこのこと。
   がっくりと肩を落としながら、エドは使役人の部屋へ戻った。
   そして、夜…。

ご主人様:「そんなことが・・・。」

ヒルダ:「ご主人様。

     私は、あの男をこれ以上この屋敷においておくのは

     危険だと思います。
     悪い人ではないのは、

     私も長年生きてますからわかります。
     ですが・・・」

ご主人様:「・・・そうか、わかった。

      明日にでも、彼に出て行ってもらうことにしよう。」

アナ:「・・・」

ご主人様:「ん?どうした?アナ。」

アナ:「…いえ、なんでもありません。」

ご主人様:「それじゃ、そろそろ私は床に着くとしよう。
      お前たちもそろそろ寝なさい。」

ヒルダ:「かしこまりました。

     何かございましたら、なんなりと。」

ナレ:書斎を後にする二人。
   それぞれに自室へ戻ると、ヒルダはすぐに床につき、
   アナは残されている書類を片付け始めた。
   
アナ:「エド…か。

    少しは楽しめると思ったのに…残念。」

ナレ:アナは寂しそうに呟くと、再び書類に目を通す。
   その時だった。
   パリンッと乾いた音がする。キッチンの方だ。
   アナは書類を置くと、そっと部屋を後にし、

   音のした方へと単身向かった。

アナ:「…誰かいるのですか?」

ナレ:そっと調理場の電気をつけると、そこには覆面をかぶった男が
   今まさに、屋敷へ侵入してきたばかり

   といった様子で立っていたのだ。

アナ:「ど、泥棒?!」

ナレ:アナは思わず叫んだ。
   その瞬間、覆面の男はアナに馬乗りになり口を塞ぐ。

アナ:「ん・・・ぐぅっ!」

ナレ:男装をしているとはいえ、そこは女だ。
   力では男には勝てない
   アナは抵抗もできずに、男に鼻と口を塞がれ
   意識を失いかけていた。
   その時だった。

エド:「うぉりゃああっ!」

アナ:「っ?!」

ナレ:強盗に体当たりをして、彼女を助け出したのはエドガーだった。
   アナは大きく息を吸って、自分を助けてくれた男に寄り添う。

エド:「大丈夫か?!」

アナ:「…なんとか助かりました。

    よく、気づきましたね。」

エド:「元傭兵だぜ?小さな物音には敏感なんだよ。
    …さ~て、強盗さんよ。
    よくも俺の同僚に、手荒な真似をしてくれたなぁ?
    覚悟は出来てるかい?」

ナレ:エドガーを見て、一瞬ためらうも
   覆面の男は意を決したように、エドガーに襲いかかる。
   手には、ここで見つけた包丁が握られている。

アナ:「エド!危ない!!」

エド:「心配無用!

    おらあああああああああああああっ!!!」

ナレ:襲いかかる強盗の手に握られた包丁を、

   手刀で叩き落とし、
   エドガーは男を羽交い絞めにした。
   流石に、この騒ぎに気づいた主人と、ヒルダが駆けつける。

ヒルダ:「こんな夜更けに、一体何を・・・」

ご主人様:「むっ…これは…?」

エド:「おう!

    俺様のいる屋敷に堂々と潜り込んで、
    アナを怖い目に合わせた、悪~い強盗さんだ。
    ヒルダさんよ、警察呼んで来てくれ。」

ヒルダ:「え…えぇ!」

ナレ:戸惑いながら返事を返すと、ヒルダはその場を後にした。

エド:「ご主人様は何か縛るものを!

    逃げられたら、困るんでね。」

ご主人様:「あ、あぁ。今、持ってくるよ。」

エド:「ふーっ。」

アナ:「エドさん・・・怪我はありませんか?」

エド:「ん?

    あぁ、この通り擦り傷一つねぇぜ。」

アナ:「・・・助かりました。貴方は私の命の恩人です。」

エド:「へっ・・・やめろよ水臭い。仲間だろ?」

ヒルダ:「そのことなのですが・・・。」

ナレ:警察に通報したヒルダが戻ってきた。
   少しばかり暗い面持ちに、首をかしげるエドガー。

ヒルダ:「・・・昼間の件で、私はご主人様に貴方に明日で
     この屋敷から出て行くようにしてほしいと・・・。
     それで、ご主人様も納得して・・・。」

エド:「・・・そっか。
    まぁ…そうだよなぁ。

    こんな物騒な男が、いつまでもここにいちゃ
    気も休まらないもんな。」

アナ:「・・・」

エド:「…短い間だったけど、楽しかったぜ。」

ご主人様:「待ちなさい。

      私はまだ君に、やめろとは言っていないぞ?」

ナレ:手に紐を携えた主人が入ってきた。
   
ご主人様:「この屋敷にいるのは年寄りと女だけ。
      もし、お前がいなければ、

      私たちはどうなっていたか・・・。
      私たちを助けてくれたお前に出て行けなんて、
      そんな酷な事を、私にさせるのかい?」

ヒルダ:「…ご主人様。」

エド:「…いいのか?

    また、何かしでかしちまうかもしれないぜ?」
   
ご主人様:「そこを指導するのが、ヒルダとアナだ。
      なぁ?二人とも。」

アナ:「・・・勿論です。」

ヒルダ:「(クスッと微笑み)…バリバリ、指導いたします。」

エド:「あんたら・・・お人好しすぎるぜ。」

ご主人様:「それじゃあ。

      これからもよろしく頼むぞ?

      エドガー・ハリー。」

エド:「おう、任せとけ!」

ヒルダ:「口!」

エド:「かしこまりましたぁあああああ!!」

ナレ:真夜中の屋敷に、楽しそうな笑い声が響き渡る。  
   こうして世にも珍しい「ヒゲのメイド」
   エドガー・ハリーは、

   改めてこの屋敷の一員に、迎えられたのでした。
   めでたし、めでたし。