【君が時を動かして】サイドストーリー『~AnotherMind~』第四章
このお話は、作者が制作したボイスドラマ。 『君が時を動かして』の別設定のお話です。 本編に登場しないキャラクター、 『ロイ・シュヴェルツェ』目線で書いたお話です。 著作権は放棄しておりません。 イプ劇、こえ部Liveでの上演以外の利用の場合は、 BBSにご一報ください。 |
登場人物紹介
ロイ・シュヴェルツェ(♂) |
洋館に一人で暮らしている青年。 物腰は穏やかで、優しい口調。 記憶を取り戻した様だが、どこか悲しそうにしている。 本来の自分と、今の自分の中で揺らいでいる。 見た目的には20代半ば。 |
シエル(♀) (性別は男ですが、 女性が演じて下さい) |
アルジャンに製造されたホムンクルスの少年。 あらゆる知識を持った状態で生まれているはずだが、 どこか抜けている。 おっとりしており、無邪気で素直。ご主人様が大好きだが、 ロイと出会い、徐々に変化がある。 見た目的には14、5歳。 |
ヴィジュ・デュボワ(♀) |
1000年以上は生きている事が確定しているが、 本当は何年生きているかわからない魔女。 アルジャンの旧友で、ロイとも何らかの関係を匂わす。 性格はクールで美意識が高い。 見た目的には20代前半。 |
アルジャン・リシャール(♂) |
シエルを作り出した自称・天才錬金術師。 アカシックレコードに触れ、不老半不死状態。 シエルに対し、Sっ気が邪魔して素直になれない。 死期が迫っている事を、シエルに言えずにいる。 見た目的には20代後半。 |
役表
君が時を動かして~AnotherMind~EP4 ロイ♂: シエル♀: ヴィジュ♀: アルジャン♂: http://j.mp/1n4kz8V |
本編
【アルジャン宅、シエルは帰還するとすぐさまキッチンに向かう】
シエル:「ただいま戻りました!
今、夕飯の準備をしますね!」
アルジャン:「あぁ、シエル。おかえり。」
【アルジャンはどう訊ねようかを迷っている様子で】
アルジャン:「なぁ、シエル?」
シエル:「なんですか?」
アルジャン:「いや…その…。
あの『幽霊屋敷』の御人から…
金貨以外に、何か貰ってないか…?」
シエル:「『幽霊屋敷』じゃないです!
あそこにはちゃんと人が住んでるんですから!」
アルジャン:「そ、そう…だな…。
いや、なんだ…その…。
名前も知らないのでな…すまん。」
シエル:「あぁー…ロイですよ。
ロイ・シュヴェルツェって云うお兄さん。」
アルジャン:「ほう…。
それで、そのシュヴェルツェさん…?から何か…」
シエル:「あ!そうそう!もらってきましたよ!
ご主人様にあげようと思って!」
アルジャン:「私に?
おぉ!それは本当か!?」
【事の他、話がスムーズに進み、アルジャンは期待するように】
【シエルはしたり顔で、ポーチの中から、
ティッシュにくるんだクッキーを取り出す】
シエル:「夕食が済んだら、ティータイムに出そうと思って。
まだ、食べちゃダメですよー?」
アルジャン:「え…?ク…クッキー…?
えっと…これだけ…か?」
シエル:「これだけ…って…。
ご主人様、そんなにクッキーが好きだったんですか?」
アルジャン:「いや、クッキーじゃなくてだな…」
【シエルはキョトンと首を傾げる】
シエル:「???」
アルジャン:「あ…いや、なんでもない。
あぁ~!そうだ!
最近、仕事探しで大変だっただろう。
今日は私が準備してやるから、
先に風呂にでも入ってこい!!」
シエル:「え?で、でも…
ご主人様にそんな事させるなんて…。」
アルジャン:「いいから、いいから!
気にせず、ゆっくり入ってくるといい!!」
シエル:「はぁ…そこまで言うなら…。」
【シエルは申し訳なさそうに頭を下げると、
風呂場の方へと向かっていった】
【シエルがキッチンを離れたのを見送り】
アルジャン:「風呂に入ってる間に、調べるしかない…!」
【シエル、風呂に入り鼻歌が聞こえてくる】
シエル:「ふんふふーんふーん♪
いつも一番風呂に入りたがるご主人様が
僕に先に入れ!だなんて…珍しい事もあるなぁ。
うーん…気持ちぃ!」
【すっかりお風呂に夢中なシエル】
【アルジャンは抜き足差し足、忍び込むと
脱衣所にあるシエルが脱いだ服を調べる】
アルジャンM:…逆十字のロザリオ…
ロザリオは…っと……ないか。
ヴィジュの思い違いか…?
いや、あの『幽霊屋敷』に
シエルが行っているのは事実だ…。
必ず…持っているはずだ…。
【気配に気づいたのか、シエルが浴槽から声を上げる】
シエル:「ご主人様…?いらっしゃるんですか?」
【取り繕ったように返事をするアルジャン】
アルジャン:「あ!…いや、その…アレだ。
湯加減はどうだ?」
シエル:「えぇ、もう最高ですよ!」
アルジャン:「そうか…あ!そうだ!
折角だから、私が背中を流してやろう!」
シエル:「え?!ご主人様が?!
さ、流石にそこまでされるのは…」
【申し訳ないといった様子のシエル】
【アルジャンはさっさと中に入る準備をして】
アルジャン:「いつもお前には、
苦労ばかりかけているからな。
今日くらいは甘えておけ!」
シエル:「は…はぁ…。」
【浴室に入るアルジャン】
【シエルはかしこまった様子で、
ちょこんと椅子に座っている】
アルジャン:「よし、洗うぞー!!」
【アルジャンはやけに張り切った様子で、
背中を洗う準備に入る】
【シエルの首には逆十字のロザリオがかかっている】
アルジャンM:逆十字のロザリオ…!
さっきまで首にかけてなどなかったのに…。
そんなに肌身離したくないのか…?!
アルジャン:「その首にかかっているのは…なんだ?」
シエル:「え…?
あ…これですか…?」
【シエルはキョトンとして、しばらく考える】
シエル:「…なんでしょう…これ…。」
アルジャン:「…え?」
【シエルの可笑しな反応に、不安になるアルジャン】
アルジャン:「なんでしょう…って…
自分で首にかけたのだろう?
どこかで買ったのか?貰ったのか?」
シエル:「え…?
買った…?…貰った…?
…なんでこんなの、持ってるんだろう…?」
アルジャン:「シエル…?
…ちょっと、それ、見せてくれないか?」
【シエルは警戒するように】
シエル:「え?
…あ…ダ、ダメ…です…。」
アルジャン:「ダメ…?どうしてだ?」
シエル:「それは…えっと…なんでだろう…」
【アルジャン、しびれを切らし】
アルジャン:「少しだけだ。貸してみろ。」
【シエルから奪い取るように、ロザリオを手にするアルジャン】
シエル:「あ!」
アルジャン:「これは…ルーン文字…?」
【その瞬間、シエルは険しい表情になる】
シエル:「返して!!」
アルジャン:「っ?!」
【アルジャンの手から、ロザリオを奪い返す】
シエル:「勝手に触らないでください!!
これは僕の物!!いくらご主人様でも、渡しません!!」
アルジャン:「シエル…?
一体どうしたというのだ…?
ロザリオの入手場所も、
何故持っているかもわからないのに、
私が触れて、そんなに気性を荒くさせる物なのか?
そのロザリオは…なんなのだ!」
シエル:「これは…なん…で…?
なんで僕…こんな…」
【アルジャンは確信し、重い口調で告げる】
アルジャン:「シエル。
あの屋敷には二度と行くな…。
お前は…良くない者に取り入れられている。」
シエル:「良くない者…?」
アルジャン:「そのシュヴェルツェという男は…
お前が思っている様な人間では…!」
【シエルは再び険しい表情になる】
シエル:「うるさい!!ロイを悪く言うな!!」
アルジャン:「シエル!?」
【シエルは立ち上がり、外へ飛び出す】
【アルジャンは追いかけるように脱衣所へ出る】
【シエルは急ぐように、服に着替えだしている】
アルジャン:「シエル!どうした!」
【シエルの肩に手をかけるアルジャン。シエルはそれを払い除けて】
シエル:「放せ!!」
アルジャン:「シエル!!」
シエル:「行かなくちゃ…ロイが…僕を呼んでる…。
傍にいなくちゃ…!!」
アルジャン:「シエル!!正気に戻れ!」
シエル:「どけ!!」
アルジャン:「な…っ!?…ぐっ…シエル…。」
【シエルの手を掴み、制止しようとするアルジャン。
しかし、小さい体からは想像できないくらいの力で、
アルジャンを突き飛ばし、そのまま出ていくシエル。】
アルジャン:「こうしてはいられん…。
ヴィジュの元へ行かねば…!」
【アルジャンは立ち上がると、外へ向かった】
【一方、洋館/書斎】
【庭の薔薇が5つ、赤くなったのを見つめるロイ。
その表情は悲しげだった。】
ロイM:…とうとうここまで来てしまったのか。
僕が望んでいたのは…本当にこんな事…?
僕が、ずっと抱いていた想いは…ただの怒り?憎しみ?
【憂うように呟く】
ロイ:「…シエル…。」
【部屋の外から、こちらへ向かってくる足音がし、
扉を開く音に振り向くロイ】
シエル:「ロイ!!」
【ロイは嬉しさと、悲しさが混ざった感情でシエルの名を呼んだ】
ロイ:「シエル…!
来て…しまったんだね…。」
シエル:「僕を…下僕に…して…ください!
闇の王!!」
【ロイは唇を噛み締めて、悲しみを堪えるように】
ロイ:「…シエル。
君は…僕をずっと“闇の王”として見ていたの?」
シエル:「え…?」
ロイ:「…僕の魔性が、君をそうさせてるのはわかってるんだ。
でも、シエル。
君の素直な気持ちは…僕を、どう見ていたの…?」
シエル:「それは…。」
【シエルは混濁する意識の中で、なんとか答えようとする】
シエル:「僕は…ロイ…僕は…。」
【シエル、気を失って倒れる】
【ロイは今まで不自由に見せていた足で、
スムーズに歩くと、シエルの傍まで移動し、抱きかかえた。】
【ロイは悲しそうに微笑む】
ロイ:「ごめんね…シエル。
もう、終わらせるよ…。」
【シエルを抱いたまま、ロイは始まりの場所、
地下の裁断へと向かっていった。】
【ヴィジュの店の前、既にアルジャンを待っていたかのように、
ヴィジュが腕を組んで立っていた。】
【アルジャンは息を切らし、ヴィジュに駆け寄る】
アルジャン:「ヴィジュ…ッ!」
ヴィジュ:「待っていたわ。
やっぱり、シエル君が
“闇の王”の封印を解いたのね。」
【アルジャンは混乱した頭を整理するように、
家での出来事を説明する】
アルジャン:「あぁ…。
逆十字のロザリオを持っていた。
お前に忠告をされていたにも関わらず、
シエルが凶暴化してしまって…家を飛び出して…
多分、あの屋敷に向かったんだろう。」
ヴィジュ:「…そう、仕方ないわ。
アルジャン、これをあげる。」
【全て見透かしたかのように、ヴィジュは落ち着いた様子で
アルジャンに1本の白い薔薇を差し出す】
アルジャン:「なんだ…?白い薔薇…?
こんな時に、花など貰っても…」
ヴィジュ:「“闇の王”の力の元は赤き血の薔薇。
それと相反するは、浄化された白き薔薇。
この薔薇は、彼を封印した時に用いた物よ。」
アルジャン:「奴の…弱点…?」
ヴィジュ:「えぇ。
これを準備するのに、時間がかかってしまって。
二つしかないけれど、うまく活用すれば…
また、アイツを封印できる。」
アルジャン:「なるほどな…貰っておこう。」
【白い薔薇をジャケットの胸ポケットに挿し】
ヴィジュ:「それじゃ、行きましょう。
過去に彼を封じ込めた地下の祭壇へ…。」
【洋館/地下祭壇】
【ロイは力を解放し、姿を禍々しい悪魔の姿へと変えていた。】
【依然、気を失ったままのシエルを台座の柩に寝かせ、
優しく頬を撫でる。】
シエル:「…んぅ…ん…」
ロイ:「シエル…楽しかったよ。
この数日、僕は長年の孤独を埋める事が出来た。
憎しみしか抱いてなかった僕に…
孤独に震えていた僕にとって、君は…
晴れ渡る空の様だった…。
君を…連れてはいけない…。
連れてっちゃダメなんだ…。
だから…僕は…
“闇の王”として、最期の仕事をしなくちゃいけない。」
【シエルの首にかかったロザリオを外し、自らの首にかける】
ロイ:「後は、封印が解けた事に気付いた魔女が…。」
【次章へ続く】