第二章

【君が時を動かして】サイドス トーリー『~AnotherMind~』第二章

このお話は、作者が制作したボイスドラマ。
『君が時を動かして』の別設定のお話です。
本編に登場しないキャラクター、
『ロイ・シュヴェルツェ』目線で書いたお話で す。
著作権は放棄しておりません。
イプ劇、こえ部Liveでの上演以外の利用の場合 は、
BBSにご一報ください。

                登場人物紹介

ロイ・ シュヴェルツェ(♂) 記憶を 失った状態で、洋館にたった一人住む青年。
物腰は穏や かで、優しい口調。
何故か、不思議な力で屋敷から出ら れない上、
自分が何百年も生きている事に不安を抱いて いる。
見た目的には20代半ば。
シエル (♀)
(性別は男ですが、
女性が演じて下さい)
アルジ ャンに製造されたホムンクルスの少年。
あらゆる知識を 持った状態で生まれているはずだが、
どこか抜けている 。
おっとりしており、無邪気で素直。ご主人様が大好き だが、
ロイと出会い、徐々に変化がある。 見た目的には 14、5歳。
ヴィジ ュ・デュボワ(♀) 1000年 以上は生きている事が確定しているが、
本当は何年生き ているかわからない魔女。
アルジャンの旧友で、ロイと も何らかの関係を匂わす。
性格はクールで美意識が高い 。
見た目的には20代前半。
アルジ ャン・リシャール(♂) シエル を作り出した自称・天才錬金術師。
アカシックレコード に触れ、不老半不死状態。
シエルに対し、Sっ気が邪魔し て素直になれない。
死期が迫っている事を、シエルに言えずにいる。
見た目的には20代後半。

                   役表

君が時 を動かして~AnotherMind~EP2

ロイ♂:      
シエル♀:    
ヴィジュ♀:    
アルジャン♂: 

http://j.mp/MHxNv3

               本編

 

【色の変わった薔薇を、少し離れたところで見つめるシエル。】

 

 

シエル:「どんな仕掛けだろう…白い薔薇が、赤くなるなんて。」

 

【ふと、庭の中を見回すと、今度は大きな悪魔の像が目に入る】

 

シエル:「…ん?なんだろ…あれ…。」

 

【トボトボと、像に近寄って見上げてみる】

 

シエル:「結構おっきいなぁ…。

     何の像だろう?…見た事ない生き物だ。」

 

【像の台座には、ブロンズの板に文字が刻まれて取り付けられている】

【シエルはそれを指で触れながら、言葉にする】

 

シエル:「“我が掟を破りし者…我が下僕とす…”?

     なんの事だろう…。」

 

【首を傾げるシエルの目に、さっきまで気付かなかった物が目に入る】

【簡素な作りの誰かの“墓”だ】

 

シエル:「…お墓…?

     お屋敷の敷地内にお墓があるなんて…。

     あれ?…今、なにか光って…」

 

【十字の墓石に何かがかけられている】

【シエルは不思議そうに近づいた】

 

シエル:「これは…ロザリオ…?」

 

【シエルは何の気なしにそれを手に取る】

 

シエル:「…変だな。

     金属なのに…なんだか、温かい気がする。」

 

【ロザリオを掌に乗せ、もう片方の手で撫でるように触れる】

 

シエル:「…ルーン文字かな。

     何か文字が掘られてるけど…

     劣化がひどくて読めないや…ん?」

 

【ふと、シエルの耳にキィキィと、扉が風に揺れる音がする】

 

シエル:「あれ…?おかしいな…扉が開いてる…。

     誰も出てきた様な気配もないし…。」

 

【ロザリオをポケットにしまい込むと、

扉に近づき、様子を伺うようにそっと中を覗く】

 

シエル:「すみませーん!誰かいませんかー?」

 

【返事はない】

 

シエル:「…いないのかな?

     じゃあ、なんで扉が開いたのかな…。」

 

【その時、シエルの無意識の中で声がする】

【『』内のロイは恐ろしい程冷たい】

 

ロイ:『…上に来い』

 

シエル:「…ん?なんだろ…なんか聞こえた気がしたけど。

     気のせい…だよね?

     とにかく、上に行ってみようっと!」

 

【無意識のまま導かれている事に気づかない】

 

【一方、書斎のロイは、先程にも増した頭痛に悩まされていた】

 

 

ロイ:「く…っ!…あ…っく…うぅ…!!」

 

ロイM:なんだ…この痛みは…!?

    頭の中を…掻き回されている様な…

 

ロイ:「は…っ…くぅ…!!」

 

【ぐちゃぐちゃになる意識の中、再び声が響く】

 

ヴィジュ:『貴方が変な真似をしないように、

      貴方の力と共に、記憶を封印しておくわ』

 

ロイM:また…この声だ…

 

ロイ:『フ…ッ。好きにすればいい。

    いずれまた僕の力を求めて、

    僕の下僕になりに来る…。

    その時、僕の力は今より強大になり、

    …お前達人間を…一人残らず、地上から…』

 

ヴィジュ:『そうならないように、見張り続けてあげるわ。

      さようなら…“        ”。』

 

ロイ:「っ?!」

 

【ロイの頭の中に、あらゆる過去の光景が駆け巡っていく】

 

ロイ:「あ…あぁ…あぁぁ…あはっ…あはは…っ!

    あはは…はは…なんだよ…。

    なんで…記憶が戻ったのに…涙が…

    …喜べよ、僕!!

    僕の力を求めて、下僕がやってきたんだ!

    もう一度、支配者になれるんだ…!!

    …なれる…んだ…!!」

 

【記憶が戻り、喜ぶべきのはずのロイの表情は、何故か悲しそうだった】

【そんな折、書斎の扉が開き、シエルがひょこっと顔を出す】

 

ロイ:「…ん?」

 

シエル:「あ…!す、すみません!!」

 

【ロイは再び、穏やかな表情に戻る】

 

ロイ:「お客さん、かい?」

 

シエル:「あの…何度も呼んだんですけど…

     誰もいないと思って…あれ?

     僕…なんで勝手に人様の家に上がり込むなんて事…。」

 

【ふと我に返り、不思議そうにしているシエル】

 

ロイ:「気にしないで。

    僕の方こそごめんね。

    …足が不自由で、下に降りるのも大変でね…。」

 

シエル:「そうだったんですか…?

     うわぁ…本当にごめんなさい!!」

 

【ロイは自分でも驚く程、スラスラと言葉が出てくる】

 

ロイ:「いや、長いことお客さんなんて来なかったから

    すごく嬉しいよ。

    君さえ良ければ、友達になってほしいな。」

 

シエル:「え…?友達…?」

 

ロイ:「うん。

    僕は足が不自由だし、外にもなかなか出られない。

    だからここに来て、外での話とか聞かせて欲しい。」

 

シエル:「でも…僕みたいな子供じゃ…。」

 

ロイ:「君は素直そうだし、僕は気に入ったよ?

    君は…僕が友達なのは…嫌?」

 

シエル:「そんな事!」

 

【シエルは強く首を横に振った】

 

ロイ:「それじゃ、決まり!僕はロイ。

    ロイ・シュヴェルツェ。」

 

シエル:「ぼ…僕は…シエルです!」

 

ロイ:「シエルか。いい名前だね。

    ところで、ここへ来たって事は

    何か僕に用事があって来たんじゃないの?」

 

シエル:「用事…あっ!そうだった!」

 

ロイ:「うん?」

 

シエル:「僕、お仕事を探してて…。

     簡単なお使い程度でもいいんです。

     このお屋敷なら…その…」

 

ロイ:「お金持ちが住んでると思って?」

 

シエル:「…はい。」

 

【申し訳なさそうにもじもじするシエル】

【ロイはクスっと微笑んだ】

 

ロイ:「ちょうど良かった。

    読みたい本があったんだけど、本屋まで行くのも大変でね。

    良かったら、『甘い誘惑』って

    レシピ本を買ってきて貰えないかな?」

 

【ロイは引き出しを開ける素振りで、コインを数枚出現させる】

 

ロイ:「5フランあれば足りるかな…はい。」

 

【コインをシエルに手渡す】

 

シエル:「うわぁ…!

     『甘い誘惑』ですね!すぐに買ってきます!」

 

【シエルは仕事を貰えたのが嬉しいのか、

ニッコリと微笑んでその場を後にした。】

 

【その場に残ったロイは、嬉しそうな表情をしながらも

どこか不思議そうな表情を浮かべる】

 

ロイ:「…面白いほど次から次に嘘が出てくる…。

    まぁ、”封印されていて外に出られない゛

    なんて言えないしね…。…シエル…か。」

 

 

【玄関を出て、庭の花壇の前を通るシエル】

 

シエル:「あれ…?

     なんか、さっきより赤くなった薔薇が増えてる…?

     …気のせいかな…?」

 

【不思議に思いながらも、任されたお使いの方に意識が傾いている】

【一方、雑貨屋のヴィジュは…】

 

 

ヴィジュM:…イヤね。

      さっきから変なヴィジョンしか見えない。

      とはいえ、ハッキリ何かが見えてるわけじゃないけど、

      すごく…嫌な感じ…。

 

【入店を知らせるベルが鳴り、アルジャンが入ってくる】

 

アルジャン:「余計な事をしてくれたな、ヴィジュよ。」

 

ヴィジュ:「あら…?私(わたくし)

      商売人として当然の事をしたまでよ?」

 

アルジャン:「金がないのに、どうやって200フランも搾り出せと?」

 

ヴィジュ:「仕事、探してるんでしょ?

      その報酬から払えばいいじゃない。」

 

アルジャン:「その見通しが立っているなら、文句など言わん。」

 

ヴィジュ:「シエル君を使って、楽に仕事を探そうとしてたんでしょ?

      本当に、愚かだわ。」

 

アルジャン:「…それは、違う。」

 

ヴィジュ:「何が違うって言うの?」

 

【アルジャンは少し寂しい表情をするが、

再びいつもの自信家の表情に変わり】

 

アルジャン:「私がいなくなれば、アイツは一人で生きなければならん。

       悪いことに、それもそう先の話ではないし…。」

 

ヴィジュ:「…そうだったわね。」

 

アルジャン:「アイツ一人で仕事を見つけ、金儲けが出来るところを

       見届けないうちは、まだ死ぬわけにはいかん。

       だから、余計なことはするな。いいな?」

 

ヴィジュ:「…意外と、あの子の事心配しているのね。

      それもそうよね…だって貴方は、あの子の代わりに…」

 

アルジャン:「それは言わない約束だ。

       さて、言いたいことも言ったし、帰るとするか。」

 

ヴィジュ:「あ!ちょっと…!」

 

アルジャン:「なんだ?」

 

ヴィジュ:「“人魚の鱗”の代金はいつ、渡してもらえるのかしら?」

 

アルジャン:「……ハハッ。

      (小声で)…この守銭奴め。」

 

 

【一方、再び古本屋にいるシエル】

【レシピ本のコーナーでロイが言っていた本を探す】

 

シエル:「甘い誘惑…っと…えーっと…あった!

     …でも、凄い古い本だなぁ…。

     初版はいつ頃だろう…。」

 

【シエルは本をレジに持っていくと料金を支払った】

 

シエル:「よし!

     早くロイさんのところに戻らなくちゃ!」

 

【本を渡す為、シエルは再びロイの家を目指す】

【丁度、ヴィジュの店から帰宅途中のアルジャンがシエルに気づく】

 

アルジャン:「ん?…シエルではないか。 

       おい、シエル!!」

 

【アルジャンの声が聞こえていないのか、そのまま走り去ってしまう】

 

アルジャン:「なんだ…?聞こえてないのか。

       あんなに慌ててどこへ…」

 

【シエルの向かった方向を見ると、あの洋館がある】

 

アルジャン:「…幽霊…屋敷…?

       肝試しでも依頼されたのか?フム…」

 

【首を傾げながらも帰路につくアルジャン】

【シエルは何の迷いもなく、ロイの屋敷へ。そして、そのまま書斎へ向かう】

 

 

シエル:「戻りましたー!」

 

ロイ:「あ、おかえりシエル!

    本は見つかったかい?」

 

シエル:「はい!

     甘い誘惑…これですよね?」

 

【本の入った袋をロイに差し出す】

【ロイは中身を確かめて頷く】

 

ロイ:「ありがとう!これで間違いないよ。

    それじゃ、お駄賃をあげようね。」

 

【ロイは再び引き出しを開ける素振りで、金貨を一枚出現させる】

 

ロイ:「はい。」

 

シエル:「え…?これって…金貨?」

 

【シエルは驚き、少し怯える様に掌の金貨とロイの顔を交互に見る】

 

ロイ:「足りなかったかな…?」

 

シエル:「いえ!…むしろ多いくらいで…。」

 

ロイ:「僕の気持ちだ。受け取っておいてよ。」

 

シエル:「ロイさん…。ありがとうございます!」

 

ロイ:「あ、それ。」

 

シエル:「え?」

 

ロイ:「ロイ“さん”って言うの。

    僕たち友達なんだから、“さん”付けはおかしいよ。

    あと、敬語も。」

 

シエル:「それじゃ…えーっと、えーっと…

    (恥ずかしそうに)…ロ…イ…?」

 

ロイ:「うん。それでいいよ。」

 

【ロイはニッコリと微笑む。シエルはつられて笑顔になった】

【ロイの屋敷の大時計が夕方の5時を告げる鐘を鳴らす】

 

シエル:「この音は…?」

 

ロイ:「あぁ、時計だよ。

    夕方の5時になった合図だ。」

 

シエル:「え?!もうそんな時間?

     僕、そろそろ帰らなくちゃ!!」

 

ロイ:「そうか…うん。

    気をつけて帰るんだよ?

    また、明日も来てくれると嬉しいな。」

 

シエル:「来ても…いいの?」

 

ロイ:「勿論!

    このレシピを見ながらお菓子でも焼いて、待ってるよ。」

 

シエル:「わぁ…♪

     それじゃ、今日はこれで帰るね!またね!ロイ!」

 

ロイ:「あぁ、またね。」

 

【シエルが出て行った後、

ロイは椅子から立ち上がりカーテンを動かして、庭の様子を見つめる】

 

【ロイはどこか嬉しそうで、悲しそうに呟く】

 

ロイ:「6つの白薔薇のうち、4つが赤く染まったか…。

    もう、あの子の心の半分は僕の物…。」

 

【ロイ、思い悩む表情で肩を落とす】

 

ロイM:あの子を下僕にして、封印を全て解かせれば…

    僕は、再び自由を手にすることが出来る…。

    あの子の心、体、魂…全部、全部、僕の物になる。

    僕だけの物になる…。そうすれば…僕は…
    でも…僕が望んでいたものは…

 

【深く頭を下げ、横に首を振る】

 

ロイ:「違う…違うんだ…。」

 

【一方、シエルはアルジャンの元へと戻る】

 


シエル:「ただいま戻りましたー!」

 

アルジャン:「おぉ、シエル。

       街で声をかけたのに、気づかなかったのか?」

 

シエル:「え?街にいらしてたんですか?

     すみません!全然気づかなくて…!」

 

アルジャン:「いや、忙しそうだったしな。

       あの様子だと、仕事でも見つかったのだろうと

       深追いはしなかったのだ。」

 

シエル:「そうでしたか…。

     あ!そうだ!!ご主人様!」

 

アルジャン:「うん?」

 

【シエルはしたり顔で、ロイから貰った金貨を取り出す】

 

シエル:「じゃーん!」

 

アルジャン:「これは…!

       シエル、お前これ…どうしたのだ?」

 

【何故か深刻そうな顔をするアルジャン】

 

シエル:「え…?

     お使いのお駄賃だって…頂いたんです…。」

 

アルジャン:「そう…か…そうか…うん。」

 

シエル:「この金貨がどうかしたんですか?」

 

アルジャン:「いや…とても価値のあるものだ。

       今の時代、流通はしていないが、

       売ればその金貨だけで、

       1年は何もせずとも暮らしていける。」

 

シエル:「えぇ!?そ、そんなに価値のあるものなんですか!?

     ど、どうしよう…流石に貰いすぎですよね…?

     返してきた方がいいのかな…。」

 

【シエルは不安そうに狼狽(うろた)える】

 

アルジャン:「いや、先方の気持ちでくれた物だ。

       ありがたく受け取っておくのが、礼儀だろう。

       しかし、こんな珍しいものを…一体誰が?」

 

シエル:「あぁ!町外れのおっき~いお屋敷に住んでる人です!」

 

アルジャン:「…あの『幽霊屋敷』か?」

 

シエル:「幽霊…屋敷…?」

 

アルジャン:「いや、私が幼い頃からあそこにあってな。

       その頃から誰が住んでるかわからない状態だったのだ。

       それで、子供たちの間で『幽霊屋敷』などと

       呼ばれるようになってな。根拠のない噂話だ。」

 

シエル:「そんなに昔から、あそこに…?」

 

アルジャン:「お前の話を聞く限り、

       あそこに住んでいるのは本当に

       とんでもない金持ちなのかもしれんな。

       いい客を見つけてくれたもんだ!

       その金貨はお前の自由に使うといい。」

 

シエル:「え?でも…生活費とか、ケーキとか…」

 

アルジャン:「お前がそう使いたければそうしてくれてもいい。

       とにかくこれは、お前が稼いできた金だ。

       まぁ、自分で食べる物や着るものでも買っておけ。」

 

【そう言って私室に戻っていくアルジャン】

 

シエル:「…ご主人様?」

 

【アルジャンの意図が読めず、首を傾げる。】

 

【手にある金貨を見つめ、何に使うべきか思い悩む】

 

シエル:「そんなに価値があるなんて…なんだか怖いな…。

     僕はただ、お使いを頼まれただけなのに…。」

 

【不安げな表情を浮かべ】

 

シエル:「ロイ…君は…何者なの…?」

 

【次章へ続く】