第三章

【君が時を動かして】サイドストーリー『~AnotherMind~』第三章

このお話は、作者が制作したボイスドラマ。
『君が時を動かして』の別設定のお話です。
本編に登場しないキャラクター、
『ロイ・シュヴェルツェ』目線で書いたお話です。
著作権は放棄しておりません。
イプ劇、こえ部Liveでの上演以外の利用の場合は、
BBSにご一報ください。

                登場人物紹介

ロイ・シュヴェルツェ(♂) 洋館に一人で暮らしている青年。
物腰は穏やかで、優しい口調。
記憶を取り戻した様だが、どこか悲しそうにしている。
本来の自分と、今の自分の中で揺らいでいる。
見た目的には20代半ば。
シエル(♀)
(性別は男ですが、
女性が演じて下さい)
アルジャンに製造されたホムンクルスの少年。
あらゆる知識を持った状態で生まれているはずだが、
どこか抜けている。
おっとりしており、無邪気で素直。ご主人様が大好きだが、
ロイと出会い、徐々に変化がある。 見た目的には14、5歳。
ヴィジュ・デュボワ(♀) 1000年以上は生きている事が確定しているが、
本当は何年生きているかわからない魔女。
アルジャンの旧友で、ロイとも何らかの関係を匂わす。
性格はクールで美意識が高い。
見た目的には20代前半。
アルジャン・リシャール(♂) シエルを作り出した自称・天才錬金術師。
アカシックレコードに触れ、不老半不死状態。
シエルに対し、Sっ気が邪魔して素直になれない。
死期が迫っている事を、シエルに言えずにいる。
見た目的には20代後半。

                   役表

君が時を動かして~AnotherMind~EP3

ロイ♂:     
シエル♀:    
ヴィジュ♀:   
アルジャン♂: 

http://j.mp/MI729F 

               本編

 

【古本屋、シエルは何かを探している】

 

シエル:「ないなぁ…。

     レアな本を見つけたら、

     ご主人様喜んでくれると思うんだけど…。」

 

シエルM:でも、昨日みたいに

     『お前が見つけたんだから、お前の自由に使え』

     なんて言われちゃったらどうしよう…。

     

シエル:「…そっか、プレゼント!

     ケーキと一緒にプレゼントしたら…

     喜んでくれるかな?…えへへっ♪」

 

【嬉しそうに微笑むシエルの目に、見慣れない冊子の本が映る】

 

シエル:「あれ…?この本…。

     おかしいな…さっきここを見た時は

     なかったと思うんだけど…。」

 

【本に手を伸ばし、表紙を見つめる】

 

シエル:「『悪魔大辞典』…?

     …あ!ロイの家の庭にあったのって…

     あれって、悪魔だったんだ!

     …なんで庭に悪魔の像が…?

     この本に、ロイの家の悪魔の事も載ってるかなぁ?」

 

【裏表紙を見るように、ひっくり返すと値札が貼られている】

 

シエル:「1フラン…?!

     うわっ!やっす…。

     結構立派な作りなのになぁ…。

     うん!買ってみよう♪」

 

【シエルは『悪魔大辞典』を手にし、レジでお金を払う】

【元々持っていた1フランで事足りたので、金貨は大事にしまったままだ】

【お店を後にし、トボトボと歩く】

 

シエル:「そうだ…!

     ヴィジュさんに言われていた“人魚の鱗”の料金。

     あの金貨で払っちゃおうかな。

     後回しにすると、ヴィジュさん怖そうだし、

     ご主人様も可愛そうだし…。」

 

【シエルはヴィジュの店の方へ向かって歩き出す】


【ヴィジュの店、相変わらず客の姿は見られない】

【入店を知らせるベルが鳴り、シエルが店の中へと入る】

【ヴィジュはカウンターの椅子に座り、テーブルに突っ伏している】

 

シエル:「ヴィジュさ~ん、こんにちはー。」

 

ヴィジュ:「あら、シエル君。いらっしゃい。

      …ん?」

 

【ヴィジュは何かに気づき、クンクンと鼻を鳴らして

シエルの周りを嗅ぎ出す】

 

シエル:「え…っと…ヴィジュさん…?」

 

ヴィジュ:「…なんでもないわ。

      ところで、どうしたの?」

 

シエル:「“人魚の鱗”の代金。払いに来ました!」

 

ヴィジュ:「…え?」

 

【200フランという大金を本当に持ってくるとは

思っていなかったので、驚きを隠せない】

 

シエル:「本当は昨日持ってこなくちゃいけなかったんですけど…。

     すみません、遅れてしまって…。」

 

ヴィジュ:「あ…気にしなくていいのよ。」

 

【シエルはカウンターに金貨を置く】

 

シエル:「はい!」

 

ヴィジュ:「まぁ…珍しい物を持ってきたわね…。

      確かに、これで十分過ぎる程だけど…。

      うちじゃお釣りを払えないわ。

      恐らく、どこへ行っても無理でしょうけど…。」

 

シエル:「えぇ…?それじゃ、使えないんですか…?」

 

【シエルは困ったような表情を浮かべる】

 

ヴィジュ:「あ…でも、ちゃんと払おうとしてくれたんですもの。

      いいわ、今回は大目に見ましょう。」

 

【そう言って、ヴィジュは帳簿のアルジャンの名前にチェックを付ける】

 

シエル:「で、でも…それじゃ、なんだか悪いですし…。」

 

【モジモジしているシエルが小脇に挟んでいる本に気づくヴィジュ】

 

ヴィジュ:「…あら?シエル君…その本…。」

 

シエル:「これですか…?

     古本屋さんで破格値で見つけたので、買っちゃいました!」

 

ヴィジュ:「…『悪魔大辞典』?

      随分物騒な物を買ったわね…。」

 

シエル:「物騒…ですか?」

 

ヴィジュ:「物騒よ!

      天使のようなシエル君が、悪魔の本なんて。

      アルジャンが知ったら、卒倒しちゃうわね。」

 

シエル:「そんなに…?」

 

【ヴィジュ、少し考えて】

 

ヴィジュ:「それじゃ…私(わたくし)が、

      その本を200フランで買うっていうのは、どう?」

 

シエル:「ヴィジュさんが?」

 

ヴィジュ:「えぇ。そうすれば、そのお金でプラマイ0でしょう?」

 

シエル:「いいんですか…?」

 

【シエルは不安そうに】

 

ヴィジュ:「私、ジョークは好みますが、嘘は嫌いですもの。

      一度言った事に、二言はありませんわ。」

 

シエル:「…それじゃあ…、はい。この本を、お譲りします!」

 

ヴィジュ:「確かに、頂くわ。あ、そうそう。

      それから、これ…。」

 

【ヴィジュはカウンターに10フランを出して】

 

ヴィジュ:「お使いのお駄賃よ。受け取っておいて。」

 

シエル:「えぇ?!これじゃ…ヴィジュさんが損して…。」

 

ヴィジュ:「私に嘘をつかせる気?

      お駄賃をあげることは、最初に約束したでしょう?」

 

シエル:「うぅ…ありがとうございます…。」

 

【シエルは申し訳なさそうに、10フランをポーチにしまった】

 

ヴィジュ:「それで好きなものでも買いなさい。

      表通りに出て、すぐにケーキ屋さんもあるし。」

 

シエル:「はい!

     あ…!そろそろ、用事があるので、失礼します!」

 

【シエルは昨日のロイとの約束を思い出し、そそくさと店を出ていく】

 

【ヴィジュは笑顔で見送ったが、シエルがいなくなると

ふと、訝しげな表情で『悪魔大辞典』を見つめた】

 

ヴィジュ:「この本…。

      我々、魔女がサバトに召喚する悪魔をまとめた物。

      この本自体に魔力はないけど…。

      あの子が持ってたら、この本に書かれている悪魔が

      全部、召喚されてしまうわ…。

      …それに、あの匂い。

      甘く、淫靡で、痺れるような…薔薇の香り…。」

 

【ヴィジュは店の仕掛けに触れ、空間から閉ざすように隠す】

 

ヴィジュ:「もし、シエル君が厄介な事に関わっていたら大変…。

      アルジャンに教えてあげなきゃ…。」

 

【ヴィジュは本を手にしたまま、アルジャンの家に向かった】


【一方、店を出たシエルはまっすぐ、ロイの屋敷へと入っていく】

【足の悪いロイを気遣い、そのまま書斎へと向かった】

 

シエル:「こんにちは!」

 

ロイ:「やぁ、シエル。」

 

【来賓用のテーブルには、美味しそうなクッキーが置いてある】

 

シエル:「うわぁ…!これ、ロイが焼いたの?!」

 

ロイ:「うん。

    初めて作ったから、ちょっと自信はないけど…。

    今、紅茶を入れるから、座ってて。」

 

【ロイは足を引き摺るように立ち上がる】

 

シエル:「あ…!大丈夫だよ!

     僕が入れるから!!」

 

ロイ:「でも、シエルはお客さんなのに…。」

 

シエル:「友達、でしょ?気にしないで!」

 

ロイ:「シエル…ありがとう。」

 

【シエルはロイを介助する様に椅子に座らせると、

紅茶を入れる為に、ティーポットを手に取る】

 

ロイ:「お湯は、一階の食堂の奥にキッチンがあるから。

    そこで沸かして来てくれる?

    茶葉はこっちにあるから。」

 

シエル:「うん!任せて!」

 

【シエルはニッコリ微笑んで、ティーポット片手に部屋を出る】


【ロイに言われた通り、キッチンでお湯を沸かす】

 

シエル:「…そういえば、ロイって…

     このお屋敷に一人で住んでるみたいだけど…

     こんなに広いお屋敷で、足が不自由で…

     いろいろ大変そうだよね…。

     僕が手伝える事はしてあげた方が、いいよね…。」

 

【お湯が湧いたのを確認し、ヤカンからティーポットに注ぐ】
【弾いたお湯が、シエルの指に触れる】

 

シエル:「…あちっ!はわ…っ、火傷しちゃった…。」

 

【水道の蛇口をひねり、赤くなった部分に水を当てる】

 

シエル:「後で絆創膏でも貼っておこう…。

     っ…ヒリヒリするなぁ…。」

 

【火傷の場所に息を吹きかけ、ティーポットを持って書斎に向かう】

【一方、書斎のロイ】

 

ロイM:魔女…。

    きっと今も、街のどこかで僕を見張っている…。

    …そうか…。あの時、庭にいたのは…魔女、か。

    …魔女は憎い。

    僕たちの力を求め、私利私欲で呼び出して、

    自分たちの力で制御できない存在だと知ると、

    こうやって、封印する。

    …嫌いだ。大嫌いだ…魔女も…人間も…。

 

【部屋にシエルが戻ってくる】

 

シエル:「ただいまー!お湯、持ってきたよ!」

 

ロイ:「あ…うん、ありがとう。

    それじゃ、ティータイムの始まりだ。」

 

【テーブルに置いてあるケースから茶葉を出し、

ティーポットの中へと入れるロイ】


【シエルはふと、何の気なしに訊ねる】

 

シエル:「ねぇ、ロイ。」

 

ロイ:「うん?」

 

シエル:「ロイは…ずっと、このお屋敷に一人っきりなの?」

 

ロイ:「え…?

    …うん。ずっと、一人だよ。」

 

シエル:「こんなに大きなお屋敷で、大変じゃない?

     その…足も不自由だし…。

     お手伝いさんとか、雇わないの?」

 

ロイ:「お手伝いさん、かぁ…。

    それは…ちょっと怖いな。

    知らない人に家の事任せるっていうのは…。」

 

シエル:「あ…それもそうか…。」

 

ロイ:「シエルだったら、家の事任せてもいいけどね。」

 

【ロイ、クスっと微笑んで】

 

シエル:「え?…僕。」

 

ロイ:「シエルが望んでくれるなら、

    うちに来て、僕の家族になってくれると嬉しい…

    あ、ごめん!

    昨日、友達になったばかりで…こんな話しても、困るよね。

    でも、今の言葉は…嘘じゃないよ?」

 

【シエルは戸惑った様子で、言葉を紡ぎ出す】

 

シエル:「あ…その…嬉しいけど…。

     僕は…えっと…仕えてるご主人様がいるから…。」

 

ロイ:「ご主人様…?」

 

シエル:「って言っても、ロイみたいにお金持ちじゃないし。

     僕が仕事探さなきゃいけない程、

     今は生活が厳しいんだけど…。」

 

ロイ:「…そう。

    …さて、そろそろ紅茶もいい頃合だ。

    クッキー、一緒に食べよう。」

 

シエル:「うん!」

 


【二人っきりのお茶会が始まったその頃】

 

アルジャン:「悪魔?」

 

ヴィジュ:「えぇ、こんな物をシエル君が持っていたわ。」

 

【アルジャン宅/リビング。

テーブルの上に、『悪魔大辞典』を出すヴィジュ】

 

アルジャン:「シエルが?

       …これまた、胡散臭いものを…。」

 

ヴィジュ:「この本自体に、特別な意味合いはないのだけれど…。

      シエル君自身から、少し嫌な空気を感じたの。」

 

アルジャン:「嫌な…空気…?

       もしや、あの金貨の事か?」

 

ヴィジュ:「いえ…。

      確かに、あの金貨も…若干の魔力を帯びてはいるけど。

      それ以上に、嫌なもの。」

 

アルジャン:「フム…。」

 

ヴィジュ:「シエル君。

      最近おかしな事を言ったり、したりは?」

 

アルジャン:「いや…これといって…。」

 

ヴィジュ:「…なにか隠している素振りは?」

 

アルジャン:「いや、そういうこともない。」

 

ヴィジュ:「そう…。」

 

【アルジャン、しびれを切らした様子で】

 

アルジャン:「一体なんだというのだ?

       シエルが何かしたとでもいうのか?」

 

ヴィジュ:「いえ、あの子が何かしたというよりも…

      取り入られたんじゃないかと思って…。」

 

アルジャン:「取り入られた?誰に?」

 

ヴィジュ:「…悪魔に。」

 

【呆れた様子でアルジャン】

 

アルジャン:「バカバカしい。

       シエルがその本を使って、悪魔を呼び出したとでも?」

 

ヴィジュ:「そうじゃないって言ってるでしょう?

      …もしかしたら、

      そうするように仕向けられたかもしれないけど。」

 

アルジャン:「…ハッキリと言え。」

 


ヴィジュ:「憶測で断言はしたくなのだけれど…。

      貴方が生まれる…200年ほど前かしら。」

 

アルジャン:「…つくづく、お前の年齢がわからなくなる。」

 

ヴィジュ:「私の年齢には触れない方がよくてよ?

      (咳払い)…とにかく、ずいぶん昔。 

      魔女のサバトで、ある悪魔を呼び出したの。」

 

アルジャン:「ほう…?」

 

ヴィジュ:「後輩魔女が呼び出したのだけれど、

      この悪魔が、ちょっと…いえ、かなり厄介でね。

      悪魔の中でも、高い地位にいる暗黒の覇者。

      通称、“闇の王”と呼ばれる悪魔だったの。」

 

アルジャン:「“闇の王”…?」

 

ヴィジュ:「闇の王は呼び出した者との契約を拒んだの。

      むしろ、自分を呼び出した事に怒りさえしていたわ。」

 

アルジャン:「何故…?

       契約者の魂を喰らい、自らの力にするのだろう?

       悪魔なら、自ら契約を迫るだろうに…。」

 

ヴィジュ:「知らないわ、そんな事。

      とにかく、彼は契約を拒み…

      問答無用、魔女達を喰らい始めた。」

 

アルジャン:「…自業自得ではないか?

       悪魔に頼る。悪魔の力を手に入れる。

       その怖さを知らずして、魔女になられても困るしな。」

 

ヴィジュ:「それは勿論よ。

      だから、自分に見合った悪魔を呼び出すべきなのだけど。

      より、強い力を欲した為、呼び出された悪魔に喰われた。

      …それで済めば、問題はなかったのよ。」

 

アルジャン:「…フム?」

 

ヴィジュ:「“闇の王”は、呼び出された事に怒り、魔女を喰らい。

      それだけに飽き足らず、この世界に住まう全てを

      喰らってやると、この一帯で破壊の限りを尽くしたわ。」

 

アルジャン:「はた迷惑な話だ…。」

 

ヴィジュ:「そこで、生き残った魔女たちは力を合わせ、

      “闇の王”を倒す為に戦った。」

 

アルジャン:「…それで、倒したのか?」

 

ヴィジュ:「こういうのは順序建てて話すものよ?

      …まぁ、いいわ。

      結論からすると、多くの犠牲の末。

      “闇の王”を封印する事に成功したの。」

 

アルジャン:「封印…?」

 

ヴィジュ:「あまりに強大すぎて、完全に倒す力が残ってなかったのよ。

      だから、私は“闇の王”の力を、その記憶と共に封印した。

      …『幽霊屋敷』と呼ばれる、あの屋敷にね。」

 

【その言葉を聞いて、アルジャンの表情は青ざめていく】

 

アルジャン:「幽霊…屋敷だと…?」

 

ヴィジュ:「町外れの大きな洋館。

      あなたも知っているでしょう?」

 

アルジャン:「…あぁ。」

 

ヴィジュ:「あそこに“闇の王”を封印した後。

      私はその見張り番として、この街に留まっている。

      私が死なない為に、自ら呪詛をかけてるのもその為よ。」

 

アルジャン:「そう…だったのか…。

       そうか…あの『幽霊屋敷』に…。

       なぁ、ヴィジュ。」

 

ヴィジュ:「え?」

 

アルジャン:「もし、悪魔に取り入れられた者を、

       無理やり悪魔から引き剥がそうとしたら、どうなる?」

 

ヴィジュ:「そうね…私が知る限りだと…。

      引き剥がそうとする者に反発し、自分を傷つけたり、

      周りに危害を加えたりするようになるわね。

      悪魔本体を倒さない限りは、どうする事も出来ないわ。」

 

アルジャン:「そう…か。」

 

ヴィジュ:「アルジャン…?」

 

アルジャン:「…大丈夫だ。

       なに、本当にシエルが悪魔に取り入られているならば。

       悪魔の監視者であるお前の責任でもあるな。

       倒しに行く時は、ちゃんと手助けはして貰うぞ?」

 

ヴィジュ:「それは勿論よ。

      でも、シエル君が悪魔に取り入られている

      確固たる証拠を見つけないと…。

      もし、“闇の王”が本当に目覚めていたとしたら。

      奴の口達者さは相当なものよ?

      丸め込まれて、我々が取り入られても困るもの。」

 

アルジャン:「確固たる証拠…か。」

 

ヴィジュ:「白き薔薇の6つの封印。

      それが全て解かれてしまえば手遅れになる。

      恐らく、私がここまで気配を感じるという事は、

      封印は幾つか破られているのでしょう。

      その中で、確認しやすいもの…そうね…。」

 

【ヴィジュは少し考えるように】

 

ヴィジュ:「ロザリオ…。

      そう、悪魔のロザリオ。」

 

アルジャン:「ロザリオ?

       普通、ロザリオは悪しき者を祓う物では…?」

 

ヴィジュ:「普通ならね?

      悪魔のロザリオは逆十字…。

      一見、わかりにくいかもしれないけど。

      もし、シエル君が“闇の王”に取り入られてるのであれば、

      悪魔のロザリオを身につけてるはずよ?

      “闇の王”自身も、悪魔のロザリオを持つ者を下僕に

      する様に動くはずだから。」

 

アルジャン:「悪魔のロザリオ…それは、どうすればいいのだ?」

 

ヴィジュ:「無理に取り上げようとしてはダメよ?

      さっき言った様に、凶暴になってしまうから。

      もし、見つけた場合は、すぐに私のところへ来なさい。

      いいわね?」

 

【アルジャン、深く考えた上で頷く】

 

アルジャン:「…あぁ、わかった。

       それで、6つの封印というのはどういう物なのだ?」

 

ヴィジュ:「ひとつ、薔薇に血を与え。

      ひとつ、悪魔のロザリオを手にし。

      ひとつ、悪魔の取引に答え。

      ひとつ、悪魔の報酬を受け。

      ひとつ、悪魔に血を与え。

      ひとつ、悪魔に身を捧ぐ。」

 

アルジャン:「身を…捧ぐ、だぁ?」

 

【アルジャンは心中穏やかではない様子で、聞き返す】

 

ヴィジュ:「悪魔との契りが成立し、

      初めて悪魔自身にも、下僕自身にも力が宿るのよ。」

 

アルジャン:「げ、下僕…だぁ?

       許さん!そんなことは許さん!!

       シエルの主人は私だ!

       シエルを下僕にしてもいいのは私だけだ!」

 

ヴィジュ:「…何も言えないわ。」

 

アルジャン:「とにかく、絶対に阻止してやる。

       シエルが帰ってきたら、早速調べておこう。

       ヴィジュ、助かった。礼を言おう。」

 

【やれやれ、といった様子でため息をつくヴィジュ】

 

ヴィジュ:「腐っても、親友の貴方の為よ。

      先の短い人生、悪魔にシエル君が奪われたら嫌でしょう?

      私は、貴方と約束したもの。

      貴方と、シエル君の時間を見守るって。」

 

【ヴィジュは珍しく、優しげな表情を浮かべる】

 

ヴィジュ:「それじゃ、そろそろお暇(いとま)するわ。

      くれぐれもシエル君を刺激しないようにね。」

 

【そう告げて、ヴィジュはアルジャン宅を去っていく】

 

アルジャンM:“闇の王”…か。

       私の残り少ない命で、シエルを返して貰えるなら

       それに越した事はないが…。

 

【皮肉るように呟く】

 

アルジャン:「私みたいな男より、

       シエルの方が美味しそうだものな…。」

 

 

【一方、ティータイムを終えた二人】

 

ロイ:「(弾んだ会話の延長で笑って)…シエルって、

    結構おっちょこちょい、なんだね。」

 

シエル:「そ、そんなことないよ!

     それは、あの時がたまたまで…」

 

ロイ:「でも、その前には洗濯の時。

    間違えて片栗粉入れちゃったんでしょ?…ぷっ。」

 

シエル:「うぅ…。」

 

ロイ:「シエルと一緒にいたら、毎日楽しいことだらけだね。

    いっぱい笑わせてくれそうだし。」

 

シエル:「僕は…笑われてるだけな気もするけど…あはは…。」

 

【複雑そうに笑うシエル】

 

【ふとロイの目に、赤くなったシエルの指が映る】

 

ロイ:「あれ…?

    シエル、その指…どうしたの?」

 

シエル:「え?…あ!これ…。

     お湯がハネて…火傷しちゃって…。」

 

ロイ:「ちょっと、見せてごらん。」

 

【シエルの火傷の具合を確かめるように】

 

ロイ:「水膨れが割れて、血が出てるじゃないか…。ん…っ。」

 

【シエルの指に吸い付くように、血を吸い取るロイ】

 

シエル:「ちょ…っ!ロイ…何して…」

 

【恥ずかしそうに顔を真っ赤にさせるシエルに、

ロイはキョトンとして、上目遣いにシエルを見上げる】

 

ロイ:「何って…血を綺麗にして…。

    あとは消毒液を…。」

 

【近くの小さなチェストの引き出しに手を伸ばし、

消毒液と絆創膏を取り出すロイ】

 

ロイ:「ちょっと滲(し)みるけど…我慢してね?」

 

【指に消毒液を塗る】

 

シエル:「…っつぅ。」

 

【消毒液を塗ると、乾かすように息を吹きかけ、絆創膏を貼るロイ】

 

ロイ:「…これで、大丈夫。」

 

シエル:「わぁ…ありがとう…。」

 

【ニコっと微笑合う二人】

【5時を告げる鐘の音が響く】

 

ロイ:「あ…!もう、こんな時間か。

    楽しくて、ついつい話し込んじゃった。」

 

シエル:「僕も、とっても楽しかった!

     ねぇ、また明日…来てもいい?」

 

ロイ:「シエルさえ良ければ、勿論。」

 

シエル:「わぁ…♪

     それじゃ、明日は僕が何か作るね!」

 

ロイ:「シエルが?

    それは楽しみだなぁ…!」

 

【皿の上に残ったクッキーをシエルはティッシュでくるみ始める】

 

ロイ:「ん?シエル…?何してるの?」

 

シエル:「あ…これ?

     折角だから、ご主人様にお土産にしようかなって!

     とっても美味しかったから!」

 

【ニッコリと微笑むシエルに、複雑そうな笑顔を見せるロイ】

 

ロイ:「そう…か。

    喜んでくれると…いいね。」

 

シエル:「うん!」

 

【くるんだクッキーをポーチにしまって】

 

シエル:「それじゃ…今日は御馳走様でした!

     すっごく楽しかったよ!」

 

ロイ:「うん!それじゃ、また明日ね。」

 

シエル:「じゃあね、バイバイ!」

 

【シエルはニコニコと手を振って部屋をあとにする】

 

【ロイもシエル同様、ニッコリと微笑むが、

シエルが去ったあとは寂しそうな表情に変わる】

 

ロイ:「…ご主人様…か。」

 

【次章へ続く】