【君が時を動かして】サイドストーリー『~AnotherMind~』第三章
このお話は、作者が制作したボイスドラマ。 『君が時を動かして』の別設定のお話です。 本編に登場しないキャラクター、 『ロイ・シュヴェルツェ』目線で書いたお話です。 著作権は放棄しておりません。 イプ劇、こえ部Liveでの上演以外の利用の場合は、 BBSにご一報ください。 |
登場人物紹介
ロイ・シュヴェルツェ(♂) |
洋館に一人で暮らしている青年。 物腰は穏やかで、優しい口調。 記憶を取り戻した様だが、どこか悲しそうにしている。 本来の自分と、今の自分の中で揺らいでいる。 見た目的には20代半ば。 |
シエル(♀) (性別は男ですが、 女性が演じて下さい) |
アルジャンに製造されたホムンクルスの少年。 あらゆる知識を持った状態で生まれているはずだが、 どこか抜けている。 おっとりしており、無邪気で素直。ご主人様が大好きだが、 ロイと出会い、徐々に変化がある。 見た目的には14、5歳。 |
ヴィジュ・デュボワ(♀) |
1000年以上は生きている事が確定しているが、 本当は何年生きているかわからない魔女。 アルジャンの旧友で、ロイとも何らかの関係を匂わす。 性格はクールで美意識が高い。 見た目的には20代前半。 |
アルジャン・リシャール(♂) |
シエルを作り出した自称・天才錬金術師。 アカシックレコードに触れ、不老半不死状態。 シエルに対し、Sっ気が邪魔して素直になれない。 死期が迫っている事を、シエルに言えずにいる。 見た目的には20代後半。 |
役表
君が時を動かして~AnotherMind~EP3 ロイ♂: シエル♀: ヴィジュ♀: アルジャン♂: http://j.mp/MI729F |
本編
【古本屋、シエルは何かを探している】
シエル:「ないなぁ…。
レアな本を見つけたら、
ご主人様喜んでくれると思うんだけど…。」
シエルM:でも、昨日みたいに
『お前が見つけたんだから、お前の自由に使え』
なんて言われちゃったらどうしよう…。
シエル:「…そっか、プレゼント!
ケーキと一緒にプレゼントしたら…
喜んでくれるかな?…えへへっ♪」
【嬉しそうに微笑むシエルの目に、見慣れない冊子の本が映る】
シエル:「あれ…?この本…。
おかしいな…さっきここを見た時は
なかったと思うんだけど…。」
【本に手を伸ばし、表紙を見つめる】
シエル:「『悪魔大辞典』…?
…あ!ロイの家の庭にあったのって…
あれって、悪魔だったんだ!
…なんで庭に悪魔の像が…?
この本に、ロイの家の悪魔の事も載ってるかなぁ?」
【裏表紙を見るように、ひっくり返すと値札が貼られている】
シエル:「1フラン…?!
うわっ!やっす…。
結構立派な作りなのになぁ…。
うん!買ってみよう♪」
【シエルは『悪魔大辞典』を手にし、レジでお金を払う】
【元々持っていた1フランで事足りたので、金貨は大事にしまったままだ】
【お店を後にし、トボトボと歩く】
シエル:「そうだ…!
ヴィジュさんに言われていた“人魚の鱗”の料金。
あの金貨で払っちゃおうかな。
後回しにすると、ヴィジュさん怖そうだし、
ご主人様も可愛そうだし…。」
【シエルはヴィジュの店の方へ向かって歩き出す】
【ヴィジュの店、相変わらず客の姿は見られない】
【入店を知らせるベルが鳴り、シエルが店の中へと入る】
【ヴィジュはカウンターの椅子に座り、テーブルに突っ伏している】
シエル:「ヴィジュさ~ん、こんにちはー。」
ヴィジュ:「あら、シエル君。いらっしゃい。
…ん?」
【ヴィジュは何かに気づき、クンクンと鼻を鳴らして
シエルの周りを嗅ぎ出す】
シエル:「え…っと…ヴィジュさん…?」
ヴィジュ:「…なんでもないわ。
ところで、どうしたの?」
シエル:「“人魚の鱗”の代金。払いに来ました!」
ヴィジュ:「…え?」
【200フランという大金を本当に持ってくるとは
思っていなかったので、驚きを隠せない】
シエル:「本当は昨日持ってこなくちゃいけなかったんですけど…。
すみません、遅れてしまって…。」
ヴィジュ:「あ…気にしなくていいのよ。」
【シエルはカウンターに金貨を置く】
シエル:「はい!」
ヴィジュ:「まぁ…珍しい物を持ってきたわね…。
確かに、これで十分過ぎる程だけど…。
うちじゃお釣りを払えないわ。
恐らく、どこへ行っても無理でしょうけど…。」
シエル:「えぇ…?それじゃ、使えないんですか…?」
【シエルは困ったような表情を浮かべる】
ヴィジュ:「あ…でも、ちゃんと払おうとしてくれたんですもの。
いいわ、今回は大目に見ましょう。」
【そう言って、ヴィジュは帳簿のアルジャンの名前にチェックを付ける】
シエル:「で、でも…それじゃ、なんだか悪いですし…。」
【モジモジしているシエルが小脇に挟んでいる本に気づくヴィジュ】
ヴィジュ:「…あら?シエル君…その本…。」
シエル:「これですか…?
古本屋さんで破格値で見つけたので、買っちゃいました!」
ヴィジュ:「…『悪魔大辞典』?
随分物騒な物を買ったわね…。」
シエル:「物騒…ですか?」
ヴィジュ:「物騒よ!
天使のようなシエル君が、悪魔の本なんて。
アルジャンが知ったら、卒倒しちゃうわね。」
シエル:「そんなに…?」
【ヴィジュ、少し考えて】
ヴィジュ:「それじゃ…私(わたくし)が、
その本を200フランで買うっていうのは、どう?」
シエル:「ヴィジュさんが?」
ヴィジュ:「えぇ。そうすれば、そのお金でプラマイ0でしょう?」
シエル:「いいんですか…?」
【シエルは不安そうに】
ヴィジュ:「私、ジョークは好みますが、嘘は嫌いですもの。
一度言った事に、二言はありませんわ。」
シエル:「…それじゃあ…、はい。この本を、お譲りします!」
ヴィジュ:「確かに、頂くわ。あ、そうそう。
それから、これ…。」
【ヴィジュはカウンターに10フランを出して】
ヴィジュ:「お使いのお駄賃よ。受け取っておいて。」
シエル:「えぇ?!これじゃ…ヴィジュさんが損して…。」
ヴィジュ:「私に嘘をつかせる気?
お駄賃をあげることは、最初に約束したでしょう?」
シエル:「うぅ…ありがとうございます…。」
【シエルは申し訳なさそうに、10フランをポーチにしまった】
ヴィジュ:「それで好きなものでも買いなさい。
表通りに出て、すぐにケーキ屋さんもあるし。」
シエル:「はい!
あ…!そろそろ、用事があるので、失礼します!」
【シエルは昨日のロイとの約束を思い出し、そそくさと店を出ていく】
【ヴィジュは笑顔で見送ったが、シエルがいなくなると
ふと、訝しげな表情で『悪魔大辞典』を見つめた】
ヴィジュ:「この本…。
我々、魔女がサバトに召喚する悪魔をまとめた物。
この本自体に魔力はないけど…。
あの子が持ってたら、この本に書かれている悪魔が
全部、召喚されてしまうわ…。
…それに、あの匂い。
甘く、淫靡で、痺れるような…薔薇の香り…。」
【ヴィジュは店の仕掛けに触れ、空間から閉ざすように隠す】
ヴィジュ:「もし、シエル君が厄介な事に関わっていたら大変…。
アルジャンに教えてあげなきゃ…。」
【ヴィジュは本を手にしたまま、アルジャンの家に向かった】
【一方、店を出たシエルはまっすぐ、ロイの屋敷へと入っていく】
【足の悪いロイを気遣い、そのまま書斎へと向かった】
シエル:「こんにちは!」
ロイ:「やぁ、シエル。」
【来賓用のテーブルには、美味しそうなクッキーが置いてある】
シエル:「うわぁ…!これ、ロイが焼いたの?!」
ロイ:「うん。
初めて作ったから、ちょっと自信はないけど…。
今、紅茶を入れるから、座ってて。」
【ロイは足を引き摺るように立ち上がる】
シエル:「あ…!大丈夫だよ!
僕が入れるから!!」
ロイ:「でも、シエルはお客さんなのに…。」
シエル:「友達、でしょ?気にしないで!」
ロイ:「シエル…ありがとう。」
【シエルはロイを介助する様に椅子に座らせると、
紅茶を入れる為に、ティーポットを手に取る】
ロイ:「お湯は、一階の食堂の奥にキッチンがあるから。
そこで沸かして来てくれる?
茶葉はこっちにあるから。」
シエル:「うん!任せて!」
【シエルはニッコリ微笑んで、ティーポット片手に部屋を出る】
【ロイに言われた通り、キッチンでお湯を沸かす】
シエル:「…そういえば、ロイって…
このお屋敷に一人で住んでるみたいだけど…
こんなに広いお屋敷で、足が不自由で…
いろいろ大変そうだよね…。
僕が手伝える事はしてあげた方が、いいよね…。」
【お湯が湧いたのを確認し、ヤカンからティーポットに注ぐ】
【弾いたお湯が、シエルの指に触れる】
シエル:「…あちっ!はわ…っ、火傷しちゃった…。」
【水道の蛇口をひねり、赤くなった部分に水を当てる】
シエル:「後で絆創膏でも貼っておこう…。
っ…ヒリヒリするなぁ…。」
【火傷の場所に息を吹きかけ、ティーポットを持って書斎に向かう】
【一方、書斎のロイ】
ロイM:魔女…。
きっと今も、街のどこかで僕を見張っている…。
…そうか…。あの時、庭にいたのは…魔女、か。
…魔女は憎い。
僕たちの力を求め、私利私欲で呼び出して、
自分たちの力で制御できない存在だと知ると、
こうやって、封印する。
…嫌いだ。大嫌いだ…魔女も…人間も…。
【部屋にシエルが戻ってくる】
シエル:「ただいまー!お湯、持ってきたよ!」
ロイ:「あ…うん、ありがとう。
それじゃ、ティータイムの始まりだ。」
【テーブルに置いてあるケースから茶葉を出し、
ティーポットの中へと入れるロイ】
【シエルはふと、何の気なしに訊ねる】
シエル:「ねぇ、ロイ。」
ロイ:「うん?」
シエル:「ロイは…ずっと、このお屋敷に一人っきりなの?」
ロイ:「え…?
…うん。ずっと、一人だよ。」
シエル:「こんなに大きなお屋敷で、大変じゃない?
その…足も不自由だし…。
お手伝いさんとか、雇わないの?」
ロイ:「お手伝いさん、かぁ…。
それは…ちょっと怖いな。
知らない人に家の事任せるっていうのは…。」
シエル:「あ…それもそうか…。」
ロイ:「シエルだったら、家の事任せてもいいけどね。」
【ロイ、クスっと微笑んで】
シエル:「え?…僕。」
ロイ:「シエルが望んでくれるなら、
うちに来て、僕の家族になってくれると嬉しい…
あ、ごめん!
昨日、友達になったばかりで…こんな話しても、困るよね。
でも、今の言葉は…嘘じゃないよ?」
【シエルは戸惑った様子で、言葉を紡ぎ出す】
シエル:「あ…その…嬉しいけど…。
僕は…えっと…仕えてるご主人様がいるから…。」
ロイ:「ご主人様…?」
シエル:「って言っても、ロイみたいにお金持ちじゃないし。
僕が仕事探さなきゃいけない程、
今は生活が厳しいんだけど…。」
ロイ:「…そう。
…さて、そろそろ紅茶もいい頃合だ。
クッキー、一緒に食べよう。」
シエル:「うん!」
【二人っきりのお茶会が始まったその頃】
アルジャン:「悪魔?」
ヴィジュ:「えぇ、こんな物をシエル君が持っていたわ。」
【アルジャン宅/リビング。
テーブルの上に、『悪魔大辞典』を出すヴィジュ】
アルジャン:「シエルが?
…これまた、胡散臭いものを…。」
ヴィジュ:「この本自体に、特別な意味合いはないのだけれど…。
シエル君自身から、少し嫌な空気を感じたの。」
アルジャン:「嫌な…空気…?
もしや、あの金貨の事か?」
ヴィジュ:「いえ…。
確かに、あの金貨も…若干の魔力を帯びてはいるけど。
それ以上に、嫌なもの。」
アルジャン:「フム…。」
ヴィジュ:「シエル君。
最近おかしな事を言ったり、したりは?」
アルジャン:「いや…これといって…。」
ヴィジュ:「…なにか隠している素振りは?」
アルジャン:「いや、そういうこともない。」
ヴィジュ:「そう…。」
【アルジャン、しびれを切らした様子で】
アルジャン:「一体なんだというのだ?
シエルが何かしたとでもいうのか?」
ヴィジュ:「いえ、あの子が何かしたというよりも…
取り入られたんじゃないかと思って…。」
アルジャン:「取り入られた?誰に?」
ヴィジュ:「…悪魔に。」
【呆れた様子でアルジャン】
アルジャン:「バカバカしい。
シエルがその本を使って、悪魔を呼び出したとでも?」
ヴィジュ:「そうじゃないって言ってるでしょう?
…もしかしたら、
そうするように仕向けられたかもしれないけど。」
アルジャン:「…ハッキリと言え。」
ヴィジュ:「憶測で断言はしたくなのだけれど…。
貴方が生まれる…200年ほど前かしら。」
アルジャン:「…つくづく、お前の年齢がわからなくなる。」
ヴィジュ:「私の年齢には触れない方がよくてよ?
(咳払い)…とにかく、ずいぶん昔。
魔女のサバトで、ある悪魔を呼び出したの。」
アルジャン:「ほう…?」
ヴィジュ:「後輩魔女が呼び出したのだけれど、
この悪魔が、ちょっと…いえ、かなり厄介でね。
悪魔の中でも、高い地位にいる暗黒の覇者。
通称、“闇の王”と呼ばれる悪魔だったの。」
アルジャン:「“闇の王”…?」
ヴィジュ:「闇の王は呼び出した者との契約を拒んだの。
むしろ、自分を呼び出した事に怒りさえしていたわ。」
アルジャン:「何故…?
契約者の魂を喰らい、自らの力にするのだろう?
悪魔なら、自ら契約を迫るだろうに…。」
ヴィジュ:「知らないわ、そんな事。
とにかく、彼は契約を拒み…
問答無用、魔女達を喰らい始めた。」
アルジャン:「…自業自得ではないか?
悪魔に頼る。悪魔の力を手に入れる。
その怖さを知らずして、魔女になられても困るしな。」
ヴィジュ:「それは勿論よ。
だから、自分に見合った悪魔を呼び出すべきなのだけど。
より、強い力を欲した為、呼び出された悪魔に喰われた。
…それで済めば、問題はなかったのよ。」
アルジャン:「…フム?」
ヴィジュ:「“闇の王”は、呼び出された事に怒り、魔女を喰らい。
それだけに飽き足らず、この世界に住まう全てを
喰らってやると、この一帯で破壊の限りを尽くしたわ。」
アルジャン:「はた迷惑な話だ…。」
ヴィジュ:「そこで、生き残った魔女たちは力を合わせ、
“闇の王”を倒す為に戦った。」
アルジャン:「…それで、倒したのか?」
ヴィジュ:「こういうのは順序建てて話すものよ?
…まぁ、いいわ。
結論からすると、多くの犠牲の末。
“闇の王”を封印する事に成功したの。」
アルジャン:「封印…?」
ヴィジュ:「あまりに強大すぎて、完全に倒す力が残ってなかったのよ。
だから、私は“闇の王”の力を、その記憶と共に封印した。
…『幽霊屋敷』と呼ばれる、あの屋敷にね。」
【その言葉を聞いて、アルジャンの表情は青ざめていく】
アルジャン:「幽霊…屋敷だと…?」
ヴィジュ:「町外れの大きな洋館。
あなたも知っているでしょう?」
アルジャン:「…あぁ。」
ヴィジュ:「あそこに“闇の王”を封印した後。
私はその見張り番として、この街に留まっている。
私が死なない為に、自ら呪詛をかけてるのもその為よ。」
アルジャン:「そう…だったのか…。
そうか…あの『幽霊屋敷』に…。
なぁ、ヴィジュ。」
ヴィジュ:「え?」
アルジャン:「もし、悪魔に取り入れられた者を、
無理やり悪魔から引き剥がそうとしたら、どうなる?」
ヴィジュ:「そうね…私が知る限りだと…。
引き剥がそうとする者に反発し、自分を傷つけたり、
周りに危害を加えたりするようになるわね。
悪魔本体を倒さない限りは、どうする事も出来ないわ。」
アルジャン:「そう…か。」
ヴィジュ:「アルジャン…?」
アルジャン:「…大丈夫だ。
なに、本当にシエルが悪魔に取り入られているならば。
悪魔の監視者であるお前の責任でもあるな。
倒しに行く時は、ちゃんと手助けはして貰うぞ?」
ヴィジュ:「それは勿論よ。
でも、シエル君が悪魔に取り入られている
確固たる証拠を見つけないと…。
もし、“闇の王”が本当に目覚めていたとしたら。
奴の口達者さは相当なものよ?
丸め込まれて、我々が取り入られても困るもの。」
アルジャン:「確固たる証拠…か。」
ヴィジュ:「白き薔薇の6つの封印。
それが全て解かれてしまえば手遅れになる。
恐らく、私がここまで気配を感じるという事は、
封印は幾つか破られているのでしょう。
その中で、確認しやすいもの…そうね…。」
【ヴィジュは少し考えるように】
ヴィジュ:「ロザリオ…。
そう、悪魔のロザリオ。」
アルジャン:「ロザリオ?
普通、ロザリオは悪しき者を祓う物では…?」
ヴィジュ:「普通ならね?
悪魔のロザリオは逆十字…。
一見、わかりにくいかもしれないけど。
もし、シエル君が“闇の王”に取り入られてるのであれば、
悪魔のロザリオを身につけてるはずよ?
“闇の王”自身も、悪魔のロザリオを持つ者を下僕に
する様に動くはずだから。」
アルジャン:「悪魔のロザリオ…それは、どうすればいいのだ?」
ヴィジュ:「無理に取り上げようとしてはダメよ?
さっき言った様に、凶暴になってしまうから。
もし、見つけた場合は、すぐに私のところへ来なさい。
いいわね?」
【アルジャン、深く考えた上で頷く】
アルジャン:「…あぁ、わかった。
それで、6つの封印というのはどういう物なのだ?」
ヴィジュ:「ひとつ、薔薇に血を与え。
ひとつ、悪魔のロザリオを手にし。
ひとつ、悪魔の取引に答え。
ひとつ、悪魔の報酬を受け。
ひとつ、悪魔に血を与え。
ひとつ、悪魔に身を捧ぐ。」
アルジャン:「身を…捧ぐ、だぁ?」
【アルジャンは心中穏やかではない様子で、聞き返す】
ヴィジュ:「悪魔との契りが成立し、
初めて悪魔自身にも、下僕自身にも力が宿るのよ。」
アルジャン:「げ、下僕…だぁ?
許さん!そんなことは許さん!!
シエルの主人は私だ!
シエルを下僕にしてもいいのは私だけだ!」
ヴィジュ:「…何も言えないわ。」
アルジャン:「とにかく、絶対に阻止してやる。
シエルが帰ってきたら、早速調べておこう。
ヴィジュ、助かった。礼を言おう。」
【やれやれ、といった様子でため息をつくヴィジュ】
ヴィジュ:「腐っても、親友の貴方の為よ。
先の短い人生、悪魔にシエル君が奪われたら嫌でしょう?
私は、貴方と約束したもの。
貴方と、シエル君の時間を見守るって。」
【ヴィジュは珍しく、優しげな表情を浮かべる】
ヴィジュ:「それじゃ、そろそろお暇(いとま)するわ。
くれぐれもシエル君を刺激しないようにね。」
【そう告げて、ヴィジュはアルジャン宅を去っていく】
アルジャンM:“闇の王”…か。
私の残り少ない命で、シエルを返して貰えるなら
それに越した事はないが…。
【皮肉るように呟く】
アルジャン:「私みたいな男より、
シエルの方が美味しそうだものな…。」
【一方、ティータイムを終えた二人】
ロイ:「(弾んだ会話の延長で笑って)…シエルって、
結構おっちょこちょい、なんだね。」
シエル:「そ、そんなことないよ!
それは、あの時がたまたまで…」
ロイ:「でも、その前には洗濯の時。
間違えて片栗粉入れちゃったんでしょ?…ぷっ。」
シエル:「うぅ…。」
ロイ:「シエルと一緒にいたら、毎日楽しいことだらけだね。
いっぱい笑わせてくれそうだし。」
シエル:「僕は…笑われてるだけな気もするけど…あはは…。」
【複雑そうに笑うシエル】
【ふとロイの目に、赤くなったシエルの指が映る】
ロイ:「あれ…?
シエル、その指…どうしたの?」
シエル:「え?…あ!これ…。
お湯がハネて…火傷しちゃって…。」
ロイ:「ちょっと、見せてごらん。」
【シエルの火傷の具合を確かめるように】
ロイ:「水膨れが割れて、血が出てるじゃないか…。ん…っ。」
【シエルの指に吸い付くように、血を吸い取るロイ】
シエル:「ちょ…っ!ロイ…何して…」
【恥ずかしそうに顔を真っ赤にさせるシエルに、
ロイはキョトンとして、上目遣いにシエルを見上げる】
ロイ:「何って…血を綺麗にして…。
あとは消毒液を…。」
【近くの小さなチェストの引き出しに手を伸ばし、
消毒液と絆創膏を取り出すロイ】
ロイ:「ちょっと滲(し)みるけど…我慢してね?」
【指に消毒液を塗る】
シエル:「…っつぅ。」
【消毒液を塗ると、乾かすように息を吹きかけ、絆創膏を貼るロイ】
ロイ:「…これで、大丈夫。」
シエル:「わぁ…ありがとう…。」
【ニコっと微笑合う二人】
【5時を告げる鐘の音が響く】
ロイ:「あ…!もう、こんな時間か。
楽しくて、ついつい話し込んじゃった。」
シエル:「僕も、とっても楽しかった!
ねぇ、また明日…来てもいい?」
ロイ:「シエルさえ良ければ、勿論。」
シエル:「わぁ…♪
それじゃ、明日は僕が何か作るね!」
ロイ:「シエルが?
それは楽しみだなぁ…!」
【皿の上に残ったクッキーをシエルはティッシュでくるみ始める】
ロイ:「ん?シエル…?何してるの?」
シエル:「あ…これ?
折角だから、ご主人様にお土産にしようかなって!
とっても美味しかったから!」
【ニッコリと微笑むシエルに、複雑そうな笑顔を見せるロイ】
ロイ:「そう…か。
喜んでくれると…いいね。」
シエル:「うん!」
【くるんだクッキーをポーチにしまって】
シエル:「それじゃ…今日は御馳走様でした!
すっごく楽しかったよ!」
ロイ:「うん!それじゃ、また明日ね。」
シエル:「じゃあね、バイバイ!」
【シエルはニコニコと手を振って部屋をあとにする】
【ロイもシエル同様、ニッコリと微笑むが、
シエルが去ったあとは寂しそうな表情に変わる】
ロイ:「…ご主人様…か。」
【次章へ続く】