最終章

【君が時を動かして】サイドストーリー『~AnotherMind~』最終章

このお話は、作者が制作したボイスドラマ。
『君が時を動かして』の別設定のお話です。
本編に登場しないキャラクター、
『ロイ・シュヴェルツェ』目線で書いたお話です。
著作権は放棄しておりません。
イプ劇、こえ部Liveでの上演以外の利用の場合は、
BBSにご一報ください。

                登場人物紹介

ロイ・シュヴェルツェ(♂) 洋館に一人で暮らしている青年。
物腰は穏やかで、優しい口調。
記憶を取り戻した様だが、どこか悲しそうにしている。
正体は“闇の王”という名の悪魔。
見た目的には20代半ば。
シエル(♀)
(性別は男ですが、
女性が演じて下さい)
アルジャンに製造されたホムンクルスの少年。
あらゆる知識を持った状態で生まれているはずだが、
どこか抜けている。
おっとりしており、無邪気で素直。ご主人様が大好きだが、
ロイと出会い、徐々に変化がある。 見た目的には14、5歳。
ヴィジュ・デュボワ(♀) 1000年以上は生きている事が確定しているが、
本当は何年生きているかわからない魔女。
アルジャンの旧友で、ロイを過去に封印している。
性格はクールで美意識が高い。
見た目的には20代前半。
アルジャン・リシャール(♂) シエルを作り出した自称・天才錬金術師。
アカシックレコードに触れ、不老半不死状態。
シエルに対し、Sっ気が邪魔して素直になれない。
死期が迫っている事を、シエルに言えずにいる。
見た目的には20代後半。

                   役表

君が時を動かして~AnotherMind~EP5

ロイ♂:     
シエル♀:    
ヴィジュ♀:   
アルジャン♂: 

http://j.mp/1n63onx

               本編

 

【シエルは深い夢の淵にいた】

【聞こえてくるのはロイの声】

 

ロイM:嫌いだ…。

 

シエル:「…ん…んん…。」

 

ロイM:魔女なんて嫌いだ…人間も嫌いだ…

 

シエル:「…え…?…ロイ?」

 

【シエルの声に気づかないのか、一方的に聞こえてくるロイの声】

 

ロイM:いつもいつも、求めるのは僕の力…。

    本当の僕を見て、寄り添う者なんていなかった…。

 

シエル:「…これは…ロイの心の声…?」

 

ロイM:こんなに苦しいなら…記憶なんていらない…。

    悪魔の力もいらない…!!

    安らかな眠りを…僕に終焉を…

 

シエル:「ダメだよ!!ロイ!

     そんな事言わないでよ!!」

 

【シエルが叫んでもその声はロイには届かない】

 

ロイM:ごめんね…シエル…。

    不器用な僕を…許して…。

    …さようなら。

 

【洋館/庭】

 

【アルジャンとヴィジュが、シエルを取り戻す為にやって来る】

 

【花壇の薔薇が5つ、赤く染まっているのを確かめるヴィジュ】

 

ヴィジュ:「…封印が、最後の一つだけ残して解かれてるわ。

      急がないと、最後の封印も…。」

 

アルジャン:「それだけは何としても阻止せねば…。

       行くぞ、ヴィジュ。」

 

ヴィジュ:「えぇ…!」

 

【屋敷の中へと入っていく二人】

 

【漂う瘴気に気づくのはヴィジュのみ】

 

ヴィジュ:「…ここまで奴の魔力が回復してるなんて…。」

 

アルジャン:「地下の祭壇と言ったな?

       そこへ向かう為の階段の場所は?」

 

【ヴィジュ、記憶を辿る様に考えて】

 

ヴィジュ:「…こっちよ。」

 

【ヴィジュに導かれ、アルジャンは屋敷の中を進む】

 

【一方、祭壇の悪魔の像に一体ずつ触れ、

刻まれた文字を読んでいくロイ】

 

ロイ:「“其の者、深淵より現れ出てて、破壊の限りを尽くそうとせん”

    “邪悪なる漆黒の竜、闇の王”

    “人に近づき、人を欺き、魂をも喰らう”

    …どれもこれも…好き勝手書いてくれたものだな…。」

 

【ロイはうんざりした様子で、再びシエルの眠る柩に歩み寄る】

 

ロイ:「…でも、この言葉の通りなのかもしれない。

    僕は、最終的に君を利用してしまうんだから…。」

 

【シエルはうなされる様に、言葉を呟く】

 

シエル:「ロ…イ…。」

 

ロイ:「ん…?」

 

シエル:「…ダメ…だよ…。

     忘れ…ない…で…。」

 

ロイ:「…寝言、か…。」

 

【シエルを愛おしそうに見つめ】

 

ロイ:「ダメなのはシエルの方だよ…?

    このままじゃ、僕はシエルを…」

 

【背後から二つの足音が、こちらへ向かって走ってくるのが聞こえる】

 

【ロイは覚悟を決めた様子で、頷き、振り向く】

 

ロイ:「…これはこれは、“先見の魔女”。

    久しぶりだね。」

 

ヴィジュ:「…“闇の王”。

      もう、その姿を取り戻していたのね…。」

 

ロイ:「あぁ。残念ながら、まだ完全な姿ではないけど…十分だ。

    君とやり合うくらいの力は、手に入ったよ。

    このバカな少年のおかげでねぇ…。」

 

【アルジャンは居ても立ってもいられない様子で、

ロイに詰め寄ろうとするが、ヴィジュに制止される】


アルジャン:「貴様が拐(かどわ)かしておいて…!

       私の大切な従者を…バカ扱いとは…!!ふざけるな!」

 

ヴィジュ:「アルジャン!

      相手の口車で心を乱さないで!!

      隙を与えちゃダメよ…!」

 

アルジャン:「…くっ」

 

【仕方なく、感情を押し殺すアルジャン】

 

【ロイはニンマリと微笑みを浮かべる】

 

ロイ:「なぁんだ…つまんないの。

    …でも、君みたいないけ好かない野郎は、

    僕も喰らいたくはないけどね。

    …君がシエルの“ご主人様”か。

    どんな立派なやつかと思ったら…

    変なくるくるパーマのメガネじゃないか。」

 

アルジャン:「こ・れ・は!!…天然パーマだ。」

 

【感情的にならないように、なんとか自制しつつ反論するアルジャン】

 

ロイ:「君みたいな奴が、シエルを作ったなんて思えないね。

    この子は素直で、無垢で…食べたらきっと美味しいんだろうな。」

 

ヴィジュ:「貴方…シエル君が作られた存在だって…知っていたの?」

 

ロイ:「僕を舐めるなよ?

    …さて、余興は終わりだ。

    僕の折角の食事を邪魔したんだ…死んでもらうよ。」

 

【そう言って、ロイは掌に漆黒のオーブを浮かび上がらせる】

 

ヴィジュ:「アルジャン、とりあえず奴の魔法は私が相殺していくわ。

      隙を狙って、あの白い薔薇を奴にぶつけるのよ。」

 

アルジャン:「薔薇一輪で悪魔を…?本当に倒せるのか?」

 

【漆黒の球体が、弾丸のようにアルジャンとヴィジュに向かう】

 

 ヴィジュ:「私をナメないでくださる?
      今に生きる“先見の魔女”ヴィジュ様を。」

【ヴィジュはそれを打ち消すように、雷撃を繰り出していく】

 


ヴィジュ:「(魔法名)エクレール!!」

 

ロイ:「ハァ…ッ!!」

 

ヴィジュ:「く…っ!」

 

【アルジャンはロイの隙を窺う様に、両者の戦いを見つめる

 

アルジャン:「…私の入り込む隙がないではないか…!

       そうだ…!今のうちにシエルだけでも…!」

 

【戦いに夢中になっているロイの目を掻い潜り、

シエルの眠る柩に駆け寄るアルジャン】

 

【しかし、ロイはそれに直様気がつき、阻止しようとする】

 

ロイ:「させるかぁぁあああああ!!」

 

アルジャン:「しま…っ!」

 

ヴィジュ:「(魔法名)ネイジュ・フルール!!」

 

ロイ:「っ?!」

 

【ヴィジュの放った氷の魔法が、ロイの左腕を凍りつかせた】

 

【その事で、アルジャンに向けられた攻撃は停止される】

 

【ヴィジュは怒り気味に、アルジャンに投げかける】

 

ヴィジュ:「この愚か者!!

      寿命が来る前に命を無駄にするつもり?!」

 

アルジャン:「す…すまん、助かった…。」

 

【凍りついた腕を、自らの炎で溶かして元に戻すロイ】

 

ロイ:「これは一本取られたな…。

    だが、次はこうはいかないよ?

    

 

ヴィジュ:「リュミエール・ブクリエ!!」

 

【ヴィジュが詠唱し、両手を頭上に掲げると、

光の盾が出現し、ロイの放った投擲を防ぐ】

 

【しかし、ロイの魔力の産物は、

ヴィジュの細い腕で受け止めるにはあまりにも強靭だった】

 

【ヴィジュは腕を押し返されながらも、負けぬよう、

必死に手を伸ばし、力を捧ぐ】

 

ヴィジュ:「く…っ!…ふぅ…っ!」

 

ロイ:「なかなかやるじゃないか…流石は僕を一度封印しただけはある。

    でも…これならどうだ!!

    はぁぁぁああああああああああああああああああああっ!!」

 

【ロイも負けじと、魔力を一気に注ぎ込む】

 

【体力を消耗し、疲れているのは明白だった。】

 

【アルジャンは隙をついて、胸元の白い薔薇を抜き取り

ヴィジュを信じ、シエルを想い、ロイ目掛け投げつける】

 

アルジャン:「貰ったぁあああああああああ!!」

 

ロイ:「な…っ?!」

 

【投げつけられた白い薔薇は、ロイの体に当たると、

まるで意思を持ったかの様に茨が蠢き、

ロイを封じ込めるように、体を縛り上げる】

 

ロイ:「これは…っ!?…くぅ…っ!」

 

【もがくロイ。

詠唱者の動きを封じた事で、闇の投擲は霧のように消え去る】

 

【その様子を確認し、ヴィジュも光の盾を解除する】

 

ヴィジュ:「…ハァ…ハァ…よくやったわ、アルジャン。

      これで、“闇の王”の力は封じれた。

      あとは、もうひとつの薔薇で…。」

 

【ヴィジュがロイに駆け寄り、

自分の所有していた白い薔薇を取り出す】

 

 

 

ロイM:ようやく…これで全て…元通りだ…。

    シエル…。

    君を誘惑した悪魔は…ここで再び長い眠りに…

 

【ロイは瞳を閉じて、その時が来るのを待った】

 

アルジャン:「ヴィジュ、最後のとどめを。」

 

ヴィジュ:「えぇ…これでおしまいよ!」

 

【ロイはさらに強く目を瞑った】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【だが、いくら待てどその時は来なかった。】

 

【ロイは薄目を開けて、様子を伺う。】

 

【そこには、自分を庇う様に立つ、小さな影があった。】

 


ロイ:「シエ…ル…?

    なんで…?どうして…?」

 

【ロイは信じられない様子で、小さな背中を見つめた】

 

【アルジャンとヴィジュも、これには驚きを隠せない】

 

アルジャン:「シエル!!貴様、そこをどけ!!」

 

シエル:「どきません!!」

 

ヴィジュ:「まだ“闇の王”の魔性で操られてるのかしら…!

      シエル君、そこにいるのは

      貴方を喰らおうとしている恐ろしい悪魔よ!」

 

シエル:「違います!!」

 

アルジャン:「では、なんだと言うのだ!」

 

シエル:「それは…」

 

【シエルはロイと過ごした時間を思い浮かべ、

その想いに偽りがなかったことを確信すると、強く答える】

 

シエル:「僕の…大切な友達です!」

 

ロイ:「シエル…。」

 

アルジャン:「友達…だと?

       やはり、まだ操られて…」

 

【ヴィジュがあることに気づき、アルジャンに告げる】

 

ヴィジュ:「アルジャン…!」

 

アルジャン:「なんだ?」

 

ヴィジュ:「…信じられないけど、今話してるのは…

      シエル君の本心よ…。」

 

【信じられない様子でアルジャン】

 

アルジャン:「な…に…?」

 

ヴィジュ:「“闇の王”が“悪魔のロザリオ”を首に…。

      シエル君の意思を操ったりは出来なくなってるはずよ。」

 

アルジャン:「シエル…お前、どうして…?」

 

【シエルは、ロイの心の声から感じた物を言葉にする】

 

シエル:「ロイは…ずっと、ずっと孤独だった。

     ここに封印される前から、ずっと…。

     心はいつも孤独で満たされていた。」

 

ロイ:「…言わないでよ…。」

 

シエル:「本当は誰かに、ちゃんと認めて欲しかった。

     悪魔の力を利用する為だけに、何度も呼び出され。

     何人もの人間の魂を食べてきたけど…

     満たされなかったんだよね?」

 

ロイ:「…言うなって…。」

 

【ロイは心なしかどこか震えている】

 

シエル:「ずっと、待ってたんだよね?

     ロイをちゃんとひとつの心ある存在として

     受け止めてくれる誰かを…。

     そして、自分を倒してくれる誰かを…。」

 

ロイ:「それ以上言うなぁぁあああああ!!」

 

【大きな声で叫ぶロイは、言葉の凄みとは裏腹に

何故か大粒の涙を流していた。】

 

ロイ:「…違う!僕は…“闇の王”。

    悪魔の中でも、口が達者で、人を甘い誘惑で貶(おとし)める。

    シエル、君は僕の魔性に惑わされ、僕を信じるように仕向けられた。

    友達だと言うその想いも…全部…偽り…なんっ…だよ…!」

 

【後半は嗚咽混じりになり、聞き取りにくい】

 

【アルジャンは呆れた様子で、ため息をつくと、

ロイに歩み寄った】

 

アルジャン:「偽りだというならば、何故、涙が出るのだ?

       お前の今の言葉…それこそ偽りではないのか?」

 

ロイ:「そんな事は…っ!」

 

【ヴィジュも呆れた様子で】

 

ヴィジュ:「アルジャン以外に、こんな愚か者を見たのは初めてだわ。

      貴方はもうすでに、

      シエル君を悪魔の誘惑から、解放してるじゃない。」

 

アルジャン:「なにぃ?

       私とコイツを一緒にするな!

       私は天才錬金術師、アルジャン・リシャール様だ!」

 

ヴィジュ:「よく言うわ…ふふっ!」

 

【見つめ合い、笑っている二人の姿に

シエルとロイは取り残されたかの様に呆然と】

 

シエル:「あの…ご主人様…?ヴィジュさん?」

 

アルジャン:「…ん?なんだ?」

 

シエル:「僕の言葉…信じてくれるんですか?」

 

【アルジャンは照れくさそうに】

 

アルジャン:「ん…あぁ~…。

       私はいつだってお前を信じているとも!」

 

ヴィジュ:「まぁ、調子いい!

      とにかくさっきも言ったように…

      “闇の王”自身が、倒される事を望んでるなら。

      私達が悪者に見えてしまうじゃない?」

 

【シエルの表情がパッと明るくなり】

 


シエル:「それって…ロイの事、見逃してくれるんですか?!」

 

ヴィジュ:「今回だけよ?

      まぁ、変な事しないか見張りは続けるけど。」

 

ロイ:「く…っ」

 

アルジャン:「…貴様が、我々を友人として認め、

       受け入れてくれるなら…。

       ゆ、友人になってやってもいい!」

 

【アルジャンは素直じゃない態度でぶっきらぼうに言い放つ】

 

【それを聞いたロイも、本当は嬉しいのに

売り言葉買い言葉で、高飛車になってしまう】

 

ロイ:「別に、君みたいな友人はいらないよ。

    僕には、シエルがいてくれたらそれでいい。」

 

アルジャン:「なんだとっ?!

       貴様、シエルに変な気を起こしたら…」

 

【苛立つアルジャンの耳元に近づき、

小声で告げるロイ】

 

ロイ:「(小声)…君が逝ったら、僕が守るから。

    …さっさとおっちね。」

 

【アルジャンは驚き、言葉をうまく発せられずにいる】

 

アルジャン:「き、きさ…っ!

       か、か、勝手に私の…!!」

 

ロイ:「大丈夫、言わないから。」

 

【ニッコリと微笑むロイに、シエルは何を勘違いしたか

嬉しそうに笑う】

 

シエル:「わぁ~…喧嘩しちゃうかと思ったけど…。

     良かった!二人共仲良く出来そうで!」

 

アルジャン:「なっ?!」

 

ロイ:「なか…よく…?!」

 

シエル:「二人共大好きだから、大好きな人達が

     仲良くしてくれるのは、嬉しいです!」

 

【シエルの言葉に、アルジャンとロイは

仕方ない、と云った様子でそれ以上は文句を言わなかった】

 

ヴィジュ:「さて、いつまでこんな陰湿な場所にいるつもり?

      やっと大団円になったんだから、

      みんなでディナーなんてどう?」

 

アルジャン:「それもそうだな…。

       おい、シエル!」

 

シエル:「はい!任せてください!!

     美味しいご馳走、い~っぱい作りますからね!」

 

ロイ:「それは楽しみだな。

    シエルに料理を作ってもらう約束だったし、丁度いい。」

 

アルジャン:「私は、毎日!シエルの手料理を食べているぞ?」

 

ロイ:「僕の好きな料理?

    そうだなぁ…人間の食べ物はあまり詳しくないから…。

    シエルが作ってくれたものなら、なんでも好きだよ?」

 

【シエルを連れ去る様に、アルジャンを完全無視して歩いていくロイ】

 

アルジャン:「うぉーい!!私を無視するな!

       いいか?本編での主役は私だ!!調子に乗るなよ!悪魔野郎!」

 

【ヴィジュは呆れた様子で、3人の背中を眺める】

 

ヴィジュ:「…やれやれ。

      とんだエピローグだわ。」

 

【お・し・ま・い♪】